本質の感染症_note用ヘッダー画像

本質の感染症(18)

本質の感染症(18)
[第18回]環境化
岩田健太郎 いわた けんたろう
神戸大学大学院医学研究科微生物感染症学講座
感染治療学教授


1

 環境活動家のグレタ・トゥーンベリが国連気候行動サミットで行った演説が波紋を呼んだ(2019年9月23日).以下に安田聡子氏のHuffpostの記事から引用する【1】.

私から皆さんへのメッセージ,それは「私たちはあなたたちを見ている」,ということです.

私は今,この壇上にいるべきではありません.私は海の向こうで学校に行っているべきです.それなのに,あなたたちは私に希望を求めてここにきたのですか? よくそんなことができますね!

あなたたちは空っぽの言葉で,私の夢そして子供時代を奪いました.それでも私はまだ恵まれている方です.

多くの人たちが苦しんでいます.多くの人たちが死んでいます.全ての生態系が破壊されています.私たちは大量絶滅の始まりにいます.

それなのにあなたたちが話しているのは,お金のことと,経済発展がいつまでも続くというおとぎ話ばかり.恥ずかしくないんでしょうか!

30年以上にわたって,科学ははっきりと示してきました.それに目をそむけて,ここにやって来て,自分たちはやるべきことをやっていると,どうして言えるのでしょうか.必要とされている政治や解決策はどこにも見当たりません.

(中略)

「気候変動に関する政府間パネル」が発表した,地球の温度上昇を1.5℃以下に抑える可能性を67%にするために残っている二酸化炭素の量は,2018年1月の時点で420ギガトンでした.今日,その数字はすでに350ギガトンにまで減っている.

なぜこれまでと同じやり方で,そしていくつかの技術的な解決策があれば,この問題が解決できるかのように振舞っていられるのでしょうか.現在の排出量レベルを続ければ,残っているカーボンバジェット(温室効果ガス累積排出量の上限)は,8年半以内に使い切ってしまいます.

しかしこの現状に沿った解決策や計画は作られないでしょう.なぜならこの数字は,とても居心地が悪いから.そしてあなたたちは,それを私たちにはっきりと言えるほど十分に成熟していない.

あなたたちは,私たちを失望させている.しかし,若い世代はあなたたちの裏切りに気づき始めています.未来の世代の目は,あなたたちに向けられている.

もしあなたたちが裏切ることを選ぶのであれば,私たちは決して許しません.

私たちはこのまま,あなたたちを見逃すわけにはいかない.

今この場所,この時点で一線を引きます.世界は目覚め始めています.変化が訪れようとしています.

あなたたちが望もうが望むまいが.(引用終わり)

2

 ぼくは彼女の生い立ちとか,環境保護思想に至るまでの経緯とか,あれやこれやのエピソードとか,周辺に出たり消えたりしている陰謀論の類にはまったく関心がない.

3

 地球温暖化はほぼ間違いのない事実だ.そして,その原因となっているのは人間社会がもたらす二酸化炭素の増加だ.

ここから先は

3,873字 / 1画像

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?