見出し画像

抗菌薬相互作用整理BOX(23)

[第23回]併用薬で薬効消失!?~CYPの誘導&阻害薬のドラビリンへの影響~

山田和範 やまだ かずのり
中村記念病院薬剤部係長

(初出:J-IDEO Vol.5 No.1 2020年1月 刊行)

はじめに

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症(COVID-19)は,世界的に感染者数の増加の勢いがおさまりません.わが国でも散発的にクラスターを発生しながら感染者が報告され,専門家の間で当初から言われていたように長期戦の様相を呈しています.COVID-19に対する特効薬はいまだにありません.かろうじて酸素化が悪くなった患者に対し,デキサメタゾンの使用が標準治療になりつつあります.当初はプロテアーゼ阻害薬(PI)であるロピナビル・リトナビルの合剤(カレトラ配合錠®)の有効性が検討されたことも記憶に新しいと思います.
 2020年1月,新型コロナウイルスが世界で流行の兆しを見せはじめていた頃,わが国で新規承認された抗HIV薬がありました.非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)のドラビリン(DOR)です.2020年3月に公開された抗HIV治療ガイドライン【1】の初期治療薬の推奨にもリストアップされました.今回は,このDORのシトクロムP450(CYP)に関連する相互作用についてみていきたいと思います.

相互作用のメカニズム

 以前にも本シリーズでCYPが関連する相互作用を取り上げましたが,CYPは,細菌から植物,哺乳動物に至るまでのほとんどすべての生物に存在する代謝酵素で,還元状態で一酸化炭素と結合して450 nmに吸収極大を示す色素という意味で命名されました.
 異物(薬物)代謝においては主要な第Ⅰ相反応の酵素で,その基質によってCYP3A4や2C9など多くの種類が知られており,ヒトでは50種類程度の分子種が報告されています.ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)の存在下で基質を水酸化し,脂溶性の薬物を体外に排泄しやすい水溶性の形にします.
 動物では主に肝臓に存在し,肝臓以外にも腎,肺,消化管,副腎,脳,皮膚などほとんどすべての臓器に少量ながら存在することが知られています.
 DORは,ピリジノン型のNNRTIであり,HIV-1逆転写酵素を非競合的に阻害することにより,HIV-1の複製を阻害します【2】.
 一般に,NNRTIはCYP3A4により代謝を受け,DORも多分に漏れずCYP3A4で代謝されます.CYP3A4を誘導する薬剤の併用により代謝が促進され,血中濃度が低下するため治療効果の減弱が懸念されます.また,CYP3A4を阻害する薬剤の場合は,逆に血中濃度は上昇することになります.
 CYP3A4誘導作用のある薬物の代表であるリファンピシン(RFP)は,細胞質に存在するプレグナンX受容体(pregnane X receptor:PXR)に結合し,細胞質から核内に移行してレチノイドX受容体(retinoid X receptor:RXR)とヘテロ二量体を形成してプロモーター配列に結合し,標的遺伝子の転写を亢進するとされます[図1].このメカニズムでCYP3A4も誘導され,その他のCYP分子種の誘導に加え,UGT1A1などの第Ⅱ相反応の誘導や,MDR1などのトランスポーターの発現誘導にも関与することが知られています【3】.

ここから先は

3,123字 / 2画像

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?