見出し画像

泣く子も黙る感染対策(7)

泣く子も黙る感染対策(7)
第7回 針刺し・切創・粘膜/創傷汚染の
予防と対応―前編―
坂本史衣 さかもと ふみえ
聖路加国際病院感染管理室マネジャー


針刺し・切創・粘膜/創傷汚染とは何か

 血液およびその他の潜在的感染性物質(other potentially infectious materials,OPIMs)[表1]が付着した鋭利器材で受傷することを「針刺し・切創(または経皮的曝露)」,これらの物質が飛散するなどして粘膜や創傷に付着することを「粘膜/創傷汚染」という.針刺し・切創・粘膜/創傷汚染をまとめて職業曝露(occupational exposure)とよぶこともある【1,2】.なお,針刺し「事故」という表現は,事故(accident)という言葉に当事者の不注意や過失が原因で起きる出来事,あるいは予防困難な偶発事例というニュアンスがあるとの理由で,医療関連感染予防の領域ではあまり用いられない【3】.

[表1]その他の潜在的感染性物質(文献1より改変)


職業曝露に伴う血液媒介病原体の感染リスク

 職業曝露により感染し得る血液媒介病原体は多数あるが[表2],特に問題となるのはB型肝炎ウイルス(hepatitis B virus,HBV),C型肝炎ウイルス(hepatitis C virus,HCV),ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus,HIV)である【4】.感染リスクはHBVが最も高く,HIVは相対的に低いが,感染リスクはウイルスの種類だけでなく,職業曝露が発生したときの状況にも左右される[表3].たとえば,ウイルス量の多い血液で満たされた採血針で深く刺した場合は,表面に少量の血液が付着した縫合針で皮膚の表面をかすった場合よりも感染リスクは高い.また,一般的に経皮的曝露のほうが,粘膜/創傷汚染に比べて感染リスクは高い【2】.

[表2]職業曝露により伝播し得る血液媒介病原体(文献4より改変)


[表3]職業曝露によるHBV,HCV,HIV の感染リスク(文献2,5,6より改変)


予防のためにできること

ここから先は

5,956字 / 2画像

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?