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抗菌薬選択チェックメイトへの道(18)

[第18回]Enterococcus gallinarumって?

山田和範 やまだ かずのり
中村記念南病院薬剤部係長

(初出:J-IDEO Vol.4 No.1 2020年1月 刊行)

医師「週末に多発脳梗塞を発症し精査目的に入院になった患者さん,週明けの本日38℃台の発熱を認めました.肺炎も疑っています.血液培養2セット,尿培養,喀痰培養のオーダーを出しました.おすすめの抗菌薬があったらよろしくお願いします」
薬剤師「循環動態は安定していますか? 抗菌薬投与までの時間の猶予はあまりない感じでしょうか?」
医師「発熱は認めていますが,本日の血圧は138/48 mmHg,脈拍は70 bpmで安定しています.尿量は,発熱のせいか少ないようです.本日,尿道カテーテルも留置しました」
薬剤師「それでは検査結果など確認して,推奨抗菌薬を提案させてもらいます」
医師「よろしくお願いします.待っています」

 早速,当該患者が入院している病棟で診療録および,検査結果を確認しました.

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現症
90歳,男性.身長158 cm,体重40 kg.
入院時主訴 頭部,頸部,両下肢のふるえ.
入院からの現病歴 A 病院に入院中.
入院2 日前に転倒し後頭部打撲.頭部CT では著変なし.入院当日の昼頃,首を左右に振る動作,尿失禁を認めたが10 分ほどで停止.低血糖なし,低血圧なし.頭部CTを撮影したが著変なし.症候性てんかんを疑いカルバマゼピンを内服.その後,首を左右に振る動作に加え上半身の不随意運動が出現した.精査目的に当院外来へ紹介.四肢筋力に左右差なし.不規則なふるえが頭部,頸部,両上肢にみられミオクローヌスが疑われた.安静時振戦なし,運動振戦については指示に応じられず評価不能.脳MRI では多発脳梗塞(小脳,両側大脳半球)を認めた.血液検査では血清Ca 低値(7.3 mg/dL)だが前回入院時(8 日前)と比べ著変なかった.高齢者の多発脳梗塞であり,悪性腫瘍の存在を疑い娘さんに尋ねると,今年5 月に他院で「肺に腫瘍がありおそらく肺癌.しかしここ1 年で生命を落とすということはないでしょう」と言われていたとのこと.脳転移も否定できず,精査目的に入院.入院3 日目,発熱と酸素飽和度の
低下を認め,肺炎も疑われ各種細菌培養がオーダーとなった.
既往歴 肝炎(50 年前),内臓損傷(詳細不明:20 年前),加齢黄斑変性(右眼失明),前立腺肥大(10 年前:泌尿器科病院で手術),急性硬膜下血腫(2 週間前当院:3 日間入院,保存的加療)
アレルギー歴・副作用歴 なし
飲酒歴 現在はほとんど飲まない
喫煙歴 ex‒smoker

検査結果(入院時:コンサルト3日前)
血液検査
WBC 3,100/μL, Hb 12.4 g/dL, Hct 37.1%,
Plt 16.8×10⁴/μL, AST 35 U/L, ALT 22 U/L,
LDH 233 U/L, γ‒GTP 17 U/L, T‒bil 0.4 mg/dL,
BUN 15.9 mg/dL, Cre 0.58 mg/dL, Na 135 mEq/L,
K 3.5 mEq/L, Cl 96 mEq/L, Ca 7.3 mg/dL,
CRP<0.05 mg/dL, GLU 107 mg/dL, ALB 2.8 g/dL
腫瘍マーカー CEA 138.1 ng/mL
胸部単純X線およびCT
両背側に胸水および右上葉に腫瘍性病変,左下肺野に浸潤影を認めた[図1,2]

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