見出し画像

抗菌薬選択チェックメイトへの道(25)

第25回]物忘れが主訴の感染症

山田和範 やまだ かずのり
中村記念病院薬剤部係長/北海道科学大学客員教授

医師「本日から予定入院の患者さんに神経梅毒の治療を開始したいと思います.ベンジルペニシリン(PCG)を使おうと思いますが用法・用量は1日2,400万単位を1日6回に分けて点滴静注でよいですよね?」
薬剤師「神経梅毒ですか.腎機能に問題がないようでしたらその用量でよろしいかと思います.患者さんの状態はどんな感じですか?」
医師「1ヵ月半前に物忘れを主訴に外来受診した患者さんなんですが,当初若年性アルツハイマー病を疑いドネペジルも開始していました.ここ1ヵ月で物忘れの度合いがひどくなり,仕事に支障をきたすほどになったようです.前回の入院で精査しましたが,神経梅毒で説明がつきそうです.現在は,発熱はなく,循環動態も落ち着いています」
薬剤師「そうなんですね.それでは病歴などを診療緑で確認後,患者さんのフォローも一緒にさせていただきます」

Point!

梅毒の第一選択薬はペニシリン!

 早速,当該患者が入院している病棟で診療録および,検査結果を確認しました.

入院時現症

58歳,男性,身長173 cm,体重71.3 kg
主訴 物忘れ,頭痛
現病歴 半年前から仕事で上司の言ったことができていないと注意されるようになった.30年前頃から神経痛のようなビリビリと,足(太腿,脹脛,足先)や頭に痛みがあった.日頃は市販のバファリンEX®(ロキソプロフェンナトリウム水和物)を飲んでいて治っていました.4ヵ月前頃より鎮痛剤の効果が乏しい頭痛が出現.3ヵ月前頃から仕事で普段使う物品の名前を忘れたり,たまに会う人の名前を忘れてしまうことが多くなった.確認したらすぐに思い出すことは可能.3ヵ月前にアクセルとブレーキを踏み間違えて停車していた車と接触事故を起こした.
 年齢的に若いのにブレーキを踏み間違う事故を起こしたことに不安を覚え,また物忘れが徐々に進行してきたため,2ヵ月前に当院外来を初診し,精査目的で1ヵ月前に4日間入院.その際の検査でRPR陽性,TPHA陽性,髄液検査にてタンパク57 mg/dL,細胞数35/μL,FTA 256倍,TPHA 2,560倍と陽性,IMP-SPECTで左半球優位に集積低下,HDS-R 27点,MMSE 29点,FAB 13と低下を認め,神経梅毒の診断となり治療目的のため再度入院となった.
既往歴 メニエール病(3年前),左耳難聴,腰部脊柱管狭窄症(3ヵ月前)
アレルギー歴・副作用歴 なし
飲酒歴 ビール350 mL 1本/日
喫煙歴 20本/日 38年
家族歴 父 アルツハイマー型認知症,母 くも膜下出血,兄 胃癌

内服薬服用歴

市販薬
バファリンEX®(ロキソプロフェン水和物) 1回1錠  疼痛時
1ヵ月半前より内服開始
ドネペジル塩酸塩OD錠(5 mg) 1回1錠 1日1回朝食後

各種検査所見

胸部単純X線検査 異常所見を認めず[図1
頭部MRI検査 両側側脳室軽度拡大.前回と比して明らかな変化はなし[図2].
一般身体所見 異常なし
神経学的所見 脳神経所見異常なし,筋力低下なし,他覚的感覚障害なし,失調なし,腱反射正常,歩行正常,Romberg(-),tandem gait normal
神経心理検査 HDS-R 27/30点,MMSE 29/30点,FAB 13/18点

HDS-R:改訂版長谷川式知能評価スケール
MMSE:Mini mental state examination
FAB:前頭葉機能検査

ここから先は

7,971字 / 5画像

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?