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日本全国感染症ケースカンファレンス道場破り(13)

日本全国感染症ケースカンファレンス道場破り(13)
[第13話]やっぱり猫が好き
(vs長崎大学病院感染症内科 安田一行)
忽那賢志 くつな さとし
国立国際医療研究センター
国際感染症センター/国際感染症対策室医長


忽那「長崎はいいなあ……やっぱ異国情緒があるよなあ……」
上村「そうですか? 坂ばっかりで,暮らすの大変そうですけどね」
忽那「おまえにはわからんだろうなあ,この異国情緒が.ほら,目を閉じれば浮かんでくるだろう,南蛮貿易の雄大な船が……」
上村「発想がチープっスね.ところで長崎まで来ましたけど,ちゃんと道場破りはするんですよね?」
忽那「あたりまえだろう.上村,おまえこの連載のタイトルが何だかわかってて言ってるのか!」
上村「こっちのセリフですよ! 前々回あたりから全然道場破りする気が皆無じゃないですか!!」
忽那「うるさいッ! 道場破りってのはなあ,タイミングが重要なんだよ! 2ヵ月に1回道場破りすればいいってもんじゃねえ!」
上村「先生,そもそも性格が連載に向いてないッス!! 打ち切られますよッ!」
忽那「もういいッ! 道場破りすればいいんだろ! やってやんよ! やってやんよ! ほら,そこになんか病院があるから! あそこで道場破りするぞ!」
上村「先生,ここ,長崎大学病院ですよ……熱研内科って書いてますけど,もしかしたら熱研って熱帯医学研究所じゃないですか?」
忽那「だったらなんなんだ!」
上村「熱研って確かめちゃめちゃ歴史のあるところですよ……先生みたいな小者が入れるところじゃないんじゃないですか……」
忽那「フッ……歴史がどうした……歴史なんてものはなあ,自分で塗り替えて行くものなんだよ!」
上村「先生,歴史塗り替えたことないでしょ.たぶん絶対返り討ちにあいますよ」
忽那「頼も~.あの忽那さんが道場破りに来たぞ~,誰かおらぬか~」
IKKO「こんな時間に誰よ,もう~.失礼しちゃうわ~」
忽那「ギャー!」
上村「オネエキャラッスね.新しいッスね」
IKKO「あらかわいい坊やたちね……♡ いったい何の用なの?」
忽那「あ,えーと,わ,私たちは道場破りに参りました……」
上村「先生,声が裏返ってますよ.ビビってないでしっかりしてください」
IKKO「今どき道場破りとか,どんだけ~!」
忽那「あ,えーと,その,もしよろしければ,症例を提示していただけないでしょうか」
IKKO「オッケ~.ちょうど退屈してたのよ~.遊んでア・ゲ・ル♡」
忽那「上村……やっぱ帰ろうか……」
上村「自分から言っといて何言ってるんですか! とりあえず症例提示してもらいましょう!」
IKKO「いくわよ~♡」

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症例:60歳代女性
主訴:呼吸困難
来院4日前に咽頭痛,鼻汁,咳嗽が出現したが自宅で様子をみていた.来院2日前から徐々に呼吸困難感が増悪し,来院当日には息切れで動くこともままならなくなり当院を受診した.
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IKKO「以上が現病歴よ」
忽那「短ッ!」
上村「鼻汁,咽頭痛,咳嗽ってことですから,いわゆる上気道症状ですよね.かぜかと思いきや,だんだんと呼吸困難が増悪してきた,と」
忽那「この経過だとかぜのあとに二次性に細菌性肺炎を合併したというストーリーがしっくり来るんじゃないだろうか.熱があったのかどうかが気になるな……」
IKKO「熱は来院の2日前からあったそうよ」
忽那「ほら……やっぱり肺炎だろコレは」
上村「インフルエンザ肺炎,あるいはインフルエンザ後の二次性細菌性肺炎はどうですかね? 季節はいつ頃ですか?」
IKKO「冬に決まってるじゃない♡」
上村「いや,決まってはないと思うんスけどね……」
忽那「やはりかぜ,インフルエンザの季節だな」

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2型糖尿病のため他院に通院中であり,直近のHbA1cは8.0であった.また肥大型心筋症も指摘されている.30~40歳頃まで1日10本喫煙していたが現在は止めている.飲酒はしない.専業主婦であり,過去半年では海外渡航歴はない.
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忽那「海外渡航歴なし,か……」
上村「この時点で先生が正解できる可能性が80%くらい下がりましたね」
忽那「うむ.残り20%に賭けるッ!」
IKKO「20%とかどんだけ~!」

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意識は清明で,血圧110/82 mmHg,脈拍100/分・整,体温38.0℃,呼吸数32回/分,SpO2 56%(room air)であった.
扁桃腫大・白苔付着なし,咽頭発赤なし,胸部聴診上は右肺の呼吸音が減弱しておりcoarse cracklesを聴取した.stridorなし.腹部は平坦,軟で腹膜刺激兆候はない.下腿浮腫もない.
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[表1]血液検査・生化学検査

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