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抗菌薬相互作用整理BOX(25)

[第25回]温故知新~SU 剤とガチフロキサシン~

山田和範 やまだ かずのり
中村記念病院薬剤部係長/北海道科学大学客員教授

(初出:J-IDEO Vol.5 No.5 2021年9月 刊行)

はじめに

 世界中で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行するなか,インド政府は2021年5月10日ムコール症の流行を宣言し,6月には疾病管理センターが警告を出しました【1】.
 ムコール症とは,Rhizopus arrhizus,Rhizomucor pusillus,Apophysomyces variabilis,Lichtheimia corymbiferaなどによる真菌感染症の一種です.これらの病原体は土壌など我々の環境に生息していますが,免疫が正常であれば,通常,発症することがない病原体です.しかし,compromised host(易感染性宿主)にとっては日和見感染症の原因となり,罹患すると高い致死率の重篤な疾患でもあります.
 インドでは1ヵ月に2人程度しかいなかった患者が,500人から600人が同時に入院するような事態になっているようです.COVID-19に関連する感染症【2】として,インドではかつてないほどの勢いで急増しており,世界中で警鐘が鳴らされています.
 感染の危険因子は複数ありはっきりしたことはわかりませんが,COVID-19に罹患し,ウイルスに感染している気道細胞に,真菌の胞子が接触すると枝状のフィラメントを伸ばし,血管に侵入し,周辺組織を壊死させる恐れがあると考えられています.さらに糖尿病などの基礎疾患が加わり,免疫力が低下することでそのリスクが高くなるとされています.
 今回は,糖尿病の血糖上昇と関連して,スルホニルウレア系糖尿病薬(SU剤)とキノロン系抗菌薬,特に現在は市場から姿を消してしまったガチフロキサシン(GFLX)との相互作用についてみていきたいと思います.

相互作用のメカニズム

 グルコース,SU剤およびグリニド薬刺激による膵臓でのインスリン分泌機序で主要な経路と考えられているのが,ATP感受性K⁺(KATP)チャネルを介する経路とされます.
 KATPチャネルは内向き整流特性を示すKir6.1とKir6.2というポア成分と,調節サブユニットであるスルホニル尿素受容体(SUR)から構成される複合体です.SURにはSUR1,SUR2A,SUR2Bと呼ばれる3つの分子種が存在し,血管平滑筋細胞のKATPチャネルはKir6.1とSUR2Bからなり,このチャネルの失調はPrinzmetal型の狭心症を惹起することが示唆されています.また,中枢神経系のKATPチャネルはKir6.2とSUR1からなり,低酸素などの代謝ストレス時のてんかん発作抑制に重要な役割を果たしているとされます【3】.
 このように各種臓器のKATPチャネルの組み合わせは異なっており,その機能や薬剤の感受性の違いの要因となっています【4~6】.
 SU剤であるグリベンクラミドはいずれの組織でもKATPチャネルを抑制しますが,膵島β細胞KATPチャネルに対し最も有効に働き,nMオーダーでチャネル活性を抑制するのに対し,血管平滑筋細胞では,μMオーダーの濃度が必要とされます.これらはSURのサブタイプの違いにより説明できるとされます[図1]【7】.

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