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抗菌薬選択チェックメイトへの道(20)

[第20回]If もしもあの時~黄色ブドウ球菌菌血症マネジメント~

山田和範 やまだ かずのり
中村記念病院薬剤部係長

(初出:J-IDEO Vol.4 No.3 2020年5月 刊行)

医師「特発性正常圧水頭症で3ヵ月前に脳室—腹腔シャント術(V-Pシャント術)を施行して入院中だった患者さん,1週間くらい前から37℃台の発熱がみられています.3日前くらいから努力性の呼吸がみられるようになり,本日,酸素飽和度の低下を認め,酸素投与しています.肺炎を疑っていますが,抗菌薬は何がよいですかね?」
薬剤師「肺炎ですか」
医師「ここ2~3日,努力様呼吸がみられていたのですが,酸素投与は特にありませんでした.しかし,本日,呼吸困難感が発現し,O₂部単純X線写真からは左肺野の浸潤影を認め,肺炎を疑っています.血培,痰培,尿培はオーダーしています」
薬剤師「バイタルサインはいかがですか?」
医師「本日の体温は37.6℃,血圧は110/65 mmHg,脈拍は105 bpmと頻脈です.収縮期血圧はここ数日,110~130 mmHgで推移しており,脈拍も100~110 bpmで推移しています.頻脈傾向ですが,全身状態としては比較的安定しています」
薬剤師「そうですか.それでは,尿,喀痰のグラム染色所見が判明次第連絡いたします」
医師「連絡お待ちしています」

 早速,当該患者が入院している病棟で診療録および,検査結果を確認しました.

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コンサルト時現症
87歳,女性.身長145cm,体重36kg.
主訴 発熱,努力性呼吸
入院時からの現病歴 1年前頃より物忘れ,不安,抑うつ症状があり,徐々に進行し,4ヵ月前より歩行障害が進行してきた.4ヵ月前に当院外来にて,特発性正常圧水頭症と診断され3ヵ月前にV-Pシャント術が施行となった.その後,バルブ圧の調整とリハビリで入院加療していた.10日前より下痢で,粘血便もみられた.8日前には30秒ほど全身性強直性間代性痙攣が認められたが自然消失.その後も全身性けいれんが出現したがジアゼパムの静注により1分で消失.粘血便は継続するため抗血小板薬のアスピリンは中止となった.6日前より食事摂取不良のためNGチューブより経管流動食が開始となった.その日に37℃台後半の微熱が認められ,さらに背部,腹部,腋下にかけて発赤が発現し,8日前から開始となっていたレベチラセタムの薬診が疑われ,中止となった.代替薬としてカルバマゼピンが開始となった.
 その後,発赤は消退傾向となり,発作も抑えられていたが,努力性呼吸がみられるようになり,粘血便はおさまったが下痢は継続していた.内服薬のうち,溶性ピロリン酸第二鉄シロップも中止となり,ほかの薬剤は継続となっていた.呼吸困難感が強くなり,マスクでの酸素投与開始となる.
 37.4℃の微熱であるが血液検査上,白血球およびCRPの上昇を認め,胸部単純X 線写真では,左肺野の浸潤影を認め,肺炎が疑われたため,抗菌薬選択について,薬剤師に相談になった.
既往歴 胃潰瘍(43年前:手術2/3切除),冠動脈狭窄症(43年前:心ステント術),糖尿病(20年前),骨粗鬆症(10年前),鉄欠乏性貧血(1年前)
アレルギー歴・副作用歴 なし
飲酒歴 ほとんど飲まない
喫煙歴 なし
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