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抗菌薬選択チェックメイトへの道(29)

[第29回]バッテリー~集中突破~

山田和範 やまだ かずのり
中村記念病院薬剤部係長/北海道科学大学客員教授

(初出:J-IDEO Vol.7 No.4 2023年7月 刊行)

医師「昨日夜に頭蓋内の硬膜外膿瘍で紹介入院となった患者さんがいます.早速本日ドレナージ術を施行予定です.すぐに抗菌薬治療を開始したいのですがメロペネム(MEPM)でよいですかね?」
薬剤師「硬膜外膿瘍ですか.患者さんの様子はいかがですか?」
医師「入院時のバイタルは収縮期血圧111 mmHg,拡張期血圧76 mmHg,脈拍80回/分でした.体温は37.5℃.JCSⅠ-1で意識は清明です.新型コロナウイルス迅速遺伝子検査は陰性で,昨日,救急部から独歩で入院となっています」
薬剤師「血液培養は採取されましたか?」
医師「オーダーは入れているので,採取していると思います.あと,現在,左前額部はガーゼで保護してあります.左瞼腫脹はありますが眼痛の訴えはなく,創部の発赤はありますが本人からは痛みの訴えはありません」
薬剤師「そうなんですね.少し診療録も確認させてもらえますか? 追って連絡いたします」
医師「午後から手術も組んでいるので早めに連絡をお待ちしています」
薬剤師「承知しました」

 当該患者が入院している病棟で診療録および,検査結果を確認しました.

入院時現症

81歳,男性,身長165 cm,体重59 kg.
主訴 発熱,創部からの排膿,前額部の発赤・腫脹,左眼瞼浮腫.
現病歴 当院入院3日前より眼瞼の腫脹あり.当院入院当日,前額部より膿の噴出を認めD病院受診.排膿し,頭部CT撮影にて硬膜下膿瘍を認め当院紹介入院となった.
既往歴 右頭頂葉皮質下出血(11年前),硬膜動静脈瘻(11年前),硬膜外膿瘍(10年前).
アレルギー歴・副作用歴 なし.
飲酒歴 ほとんど飲まない.
喫煙歴 なし.

検査結果

血液検査:入院時
WBC 11,920/μL, Hb 12.4 g/dL, Hct 38.4%, Plt 18.5×10⁴/μL, BUN 22.0 mg/dL, Cre 1.17 mg/dL, AST 12 U/L, ALT 10 U/L, γ-GTP 195 U/L, Na 138 mEq/L, K 4.1 mEq/L, Cl 109 mEq/L, Ca 9.0 mg/dL, Alb 3.9 g/dL, BS 115 mg/dL, CRP 8.57 mg/dL.

胸部単純X線 うっ血や胸水なし.
頭部単純X線図1
頭部MRI:T2強調画像 硬膜外膿瘍を認める(矢頭)[図2].

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