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泣く子も黙る感染対策(27)

[第27回]手指衛生について考える

坂本史衣 さかもと ふみえ
聖路加国際病院感染管理室マネジャー

(初出:J-IDEO Vol.5 No.4 2021年7月 刊行)

 一つの病院の話で恐縮だが,新型コロナの流行でよかった数少ないことの一つは,手指衛生実施率が上昇したことである.手指衛生には二通りあると言われており,一つは他者のための手指衛生,もう一つは自分のための手指衛生である.たとえば,世界保健機関(WHO)が推奨している下記の手指衛生の5つのタイミングのうち,他者(病院では患者)のための手指衛生は1番と2番,自分のための手指衛生は3~5番である【1】.通常,前者の実施率は後者よりも低くなりやすい.

1.患者に接触する前
2.無菌操作の前
3.体液曝露リスク後
4.患者との接触後
5.患者周辺の環境との接触後

 「誰が感染者かわかりづらい」新型コロナが流行したことで,自分のための手指衛生を行うより強い動機づけが生じたと同時に,急激に重症化する患者の存在が他者のための手指衛生をも後押ししたと感じている.

┃手指衛生を多面的に捉える

 手指衛生実施率を改善するために何が必要か.これについては,さまざまな研究や提言が行われているが,筆者はカナダのオンタリオ州政府が発行しているフレームワークを活用している【2】[図1].

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