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微生物検査 危機一髪!(37)

[第38回]グラム染色のよもやま話~いろいろな相談~

山本 剛 やまもと ごう
大阪大学感染症総合教育研究拠点(CiDER)
大阪大学医学部附属病院感染制御部

(初出:J-IDEO Vol.7 No.4 2023年7月 刊行)

1)肺結核と細菌性肺炎の区別をしたいので喀痰グラム染色を実施することがあります.もし,肺結核であれば感染性があり心配です.何に気をつければよいでしょうか?

❶肺結核塗抹陽性率は10.6%

 2021年の結核登録者情報調査年報集計結果【1】によると,全国で新規に登録された肺結核患者のうち塗抹陽性者は10.6%で,年齢別では80~89歳の患者で最も多く33.3%,地区別で最も多い地域は大阪市で18.6%になっています.つまり,結核のリスクが高い状況は,診察している場所や対象患者の年齢により異なります.結核罹患率の高い地域の場合は,日常から肺結核を疑う患者が来た場合には,どのように対応すべきか考えておくとよいかもしれません.

❷肺結核をいつ疑うのか?

 結核罹患率の高い地域で診察すると,細菌性肺炎を疑っていたら肺結核でしたというのは往々にしてあります.特に胸部画像所見で肺結核を示唆する異常陰影がある場合は,喀痰の標本作成はできる限り安全キャビネットのなかで行うことが望ましいです.肺結核の可能性がかなり低く細菌性肺炎を強く疑う場合でも,喀痰を綿棒や白金耳を丁寧に扱い,できるだけエアロゾルが発生しにくい手技で標本作成をして,換気のよい場所で喀痰グラム染色をするなどを考慮する必要があります.結核菌は標本作成後にアルコール固定をすることで感染性がなくなるので,固定後の標本は安全に取り扱うことができます.

❸こういうスメアは肺結核を疑うので注意する

 肺炎患者を疑う患者で,喀痰グラム染色所見で多核白血球が多く確認され,未治療にもかかわらず微生物がまったく確認できない場合は肺結核も鑑別にあがります.その場合は,抗酸菌染色(Ziehl-Neelsen染色など)を追加するのか検討が必要な場合があります.

❹喀痰グラム染色で結核菌を探せるか?

 前述したように,「多核白血球が多く確認され,未治療にもかかわらず微生物がまったく確認できない場合」は肺結核を疑います.結核菌は分類上はグラム陽性桿菌で,一般細菌とは異なり細胞壁の外側に脂質が存在するため,グラム染色では染まりにくいのが大きな特徴です.それはゴースト状と例えられ,顕微鏡下ではキラキラとガラス状に見えたり【2】,焦点を微調整をするとグラム陽性に染まって見えることがあります[図 1].

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