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本質の感染症(15)

本質の感染症(15)
[第15回] いじめ体質化
岩田健太郎 いわた けんたろう
神戸大学大学院医学研究科微生物感染症学講座
感染治療学教授


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 本稿を書いているのは2019年3月下旬のことである.国内では芸能人のピエール瀧が違法薬物を使用したために逮捕された.

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 ぼくは芸能界についてほとんど無知なので,このピエール瀧という人物をまったく知らなかった.大河ドラマの『いだてん』に出ている足袋職人だ,と聞いて「へー,そうなの」と思った程度である.ぼくはテレビをほとんど観ないのだが,このところ「大河」に凝っていて(日本史や世界史にも凝っている),毎週録画して楽しんでいたのだ.

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 ところが,その『いだてん』も再放送時にはピエール瀧が出演するシーンをカットしたり,代役を立てて今後は出演させない措置をNHKはとったという.過去に出演したドラマや映画も放映しなくなり,ウェブ配信のアーカイブからも削除するのだとか.

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 NHKはこういう対応をすべきではなかった.ピエール瀧が出演するドラマやら映画やら演奏する音楽を封印するのは過剰な忖度以外の何物でもない.

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 言い分はわかる.犯罪者が出演・演奏するようなドラマや映画や音楽を観たり聴いたりするのは不愉快だ,見たくない,というクレームがつくというのだろう.

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 子どもの教育上よくない,という意見もあるかもしれない.が,どのようなタイプの犯罪を犯した人間が出演するドラマを観るから,子どもが同様の犯罪に走るという理路はまったく整合性がない.もし,犯罪者の容姿がテレビに現れることで,サブリミナルに子どもを犯罪への性向を持たせる,というのならば(そんなアホな話はないと思うが,まあ仮に百歩譲っての話だ),犯罪者を映像で見せるニュース番組やバラエティー番組や,ドキュメンタリー番組のたぐいはすべて排除せねばならないではないか.

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 というわけで,犯罪者が出演する媒介をテレビなどから排除するのは「不愉快だ」感情に阿(おもね)って,ということになる.これが,ヤバイものの考え方なのだ.

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