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Dr.岸田の 感染症コンサルタントの挑戦(22)

[第22回]日本における感染症へのひとつの形
―感染症コンサルタントによるプログラム介入による戦略 ①―

岸田直樹 きしだ なおき
感染症コンサルタント/北海道科学大学薬学部客員教授

(初出:J-IDEO Vol.4 No.5 2020年9月 刊行)

薬剤耐性菌の日本の現状

 薬剤耐性菌の蔓延は世界的な公衆衛生上の驚異とされています.WHO(世界保健機関)によると,2050年までに約1,000万人が薬剤耐性菌の感染により死亡すると予測されています【1】.日本では,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やバンコマイシン耐性腸球菌などの薬剤耐性グラム陽性菌に加え,多剤耐性緑膿菌(MDRP)や多剤耐性アシネトバクターなどの薬剤耐性グラム陰性桿菌による医療関連感染症がいまだに医療機関で大きな問題となっています【2】.我が国では,抗菌薬耐性化対策の一環として2020年までに抗菌薬の使用量を削減することを目標としており,また,MRSAやカルバペネム耐性緑膿菌の削減についても,あらかじめ設定された目標を達成することを目標としています【3】.
 日本の薬剤耐性菌の経時的な疫学的動態は,日本院内感染サーベイランスシステム(JANIS)によってモニタリングされています.院内感染対策として,1996年から感染対策に関わる診療報酬として,国保が感染対策の医療費を財政的に負担するようになり,2012年からは国が診療報酬の対象を拡大し,全国的に関連する介入を強化してきています.その結果,MRSAと薬剤耐性P. aeruginosaの割合は,全国的にみても明らかに減少傾向がみられています.[図1]はJANISが公開している病床によらない全体データです.2014年に緑膿菌のカルバペネム耐性が増えていますが,これはCLSI2012への変更に伴うブレイクポイントMICの変化によるものです.日本は,感染対策への予算がつくようになったこともあり,耐性菌は減少傾向を示していますが,その傾向は徐々に鈍化してきています.

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