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抗菌薬相互作用整理BOX(21)

[第21回]ワクチンと薬剤の相互作用とは?
山田和範 やまだ かずのり
中村記念病院薬剤部係長/北海道科学大学客員教授

(初出:J-IDEO Vol.4 No.4 2020年7月 刊行)

はじめに


 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による世界的な感染拡大が起き,社会的にも大きな影響が出ています.このウイルスによる臨床症状についても,発熱,咳嗽などの呼吸器症状に加え,味覚・嗅覚障害も報告され,臨床像および病態の解明も少しずつ明らかになってきています.最近では,重症化の病態に炎症が関与していることも報告されています.
 米国やイタリアなどに比較し,日本をはじめとするアジア諸国はSARS-CoV-2感染率が低く,BCG接種との関連【1,2】について指摘する声もありますが,例外も存在し,はっきりしたことはわかっていません.これらを受けて,混乱を避けるため日本ワクチン学会ではCOVID-19に対するBCGワクチンの効果に関する見解(http://www.jsvac.jp/pdfs/kenkai.pdf)を発表するまでになっています.
 この感染症のコントロールのためには,治療薬のみならず,有効なワクチンによる免疫獲得が必要であり,現在,米国と中国を中心に各国が急ピッチで開発にしのぎを削っています.
 ワクチンと薬剤の相互作用については,免疫抑制剤を服用中の患者では,生ワクチンは禁忌だということはご存じの方も多いと思いますが,意外(!?)にも,ワクチンによるサイトカインを介した代謝酵素への影響についても報告があります.
 今回は,ワクチンと他の薬物の相互作用についてみていきたいと思います.

相互作用のメカニズム


 ワクチンと薬物の相互作用については,大きく2つに分けられます.
 まず,薬剤のなかでも免疫抑制剤を使用している患者に対する,生ワクチン株に由来する感染症発症リスクや不活化ワクチンの免疫ができにくい可能性といった免疫抑制によるワクチンの副反応や効果減弱についてであり,もう1つは,ワクチンが薬物代謝酵素の活性に影響を及ぼすことで,結果的に薬物の血中濃度が変動し,有効治療域が狭い薬物を使用している場合は,併用薬の思わぬ薬効増強作用がみられる場合です.
 前者については,副腎皮質ステロイドやシクロスポリン,タクロリムスなどの免疫抑制剤を使用中の患者では,サイトカインの産生を抑えるなどリンパ球の機能を抑制しており,生ワクチンは弱毒化しているとはいえ,これらの患者では接種した生ワクチン株の感染を引き起こす可能性が高まるため禁忌となっています.わが国で使用可能なワクチンを[表1]に示します.不活化ワクチンやトキソイドについては,安全性と有効性は確立されており,免疫抑制剤を使用している患者はワクチンで予防できる疾患(VPD)をしっかり予防することが大切です.

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