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日本全国感染症ケースカンファレンス道場破り(10)

日本全国感染症ケースカンファレンス道場破り(10)
[第10話] NCGMからの追手
(vs 国立国際医療研究センター 井出 聡)
忽那賢志 くつな さとし
国立国際医療研究センター国際感染症センター/国際感染症対策室医長


忽那「ふう……もうすぐ京都だな.どのお寺に行こうかなー.最近,修学院離宮とか行ってないよなあ…….いや,ここはあえて西芳寺という選択肢も」
上村「何があえてなんですか.どっちも知らないお寺ですよ.っていうか,先生,そろそろ病院に戻らなくて大丈夫ですか?」
忽那「病院ってNCGM(国立国際医療研究センター)のこと? いや,そりゃ大丈夫だよ.オレなんかいなくてもすべて問題なくいってるから」
上村「それも悲しいですね……」
忽那「だからさ……オレたちにできることは,こうして道場破りを繰り返すことで,少しでもNCGMの名声を高めることなんじゃないかな……(遠い目)」
上村「いや,まだ1回も勝ってませんから名声はむしろ下がってるんじゃないかと思いますよ」
忽那「まあまあ……それはともかく,この街道を抜ければ京都市だ.お寺巡りのついでに道場破りと洒落込もうじゃないか」
上村「ついでにって……あっ! 先生,あそこの竹やぶの中から誰かが覗いてますよ! 何奴ッ!」
忽那「そりゃ竹やぶの中に人くらいいるよ……だって京都だもん.どうせ落ち武者とかでしょ?」
井手「きええええええええええええええええええい!」
上村「うわあああ誰か竹やぶから出てきた!!」
忽那「ほら,やっぱり落ち武者じゃん」
井手「ようやく見つけたでござるよ……忽那,上村の『チームAC/DC』!!」
忽那「AC/DC? オーストラリアのロックバンドじゃないか」
上村「きっとわれわれの所属がACC(エイズ治療開発センター)とDCC(国際感染症センター)だからですよ.ちょっとオシャレですね」
井手「お二人は『当直サボりの罪』ですでにNCGM内で指名手配されているでござるよ……」
忽那「ああ……そういえば当直に帰るの忘れてたな……」
上村「すっかりサボってましたね.でも指名手配とかカッコいいっすね.最強ッスね」
井手「忽那先生には金5,200円の懸賞金がかかっているでござる!」
忽那「安っ! ここまで追って来る交通費のほうが高くね? つーか,オレの代わりに当直1回したほうがよくね?」
上村「ちなみに僕の報奨金は……?」
井手「缶コーヒー1本でござる」
上村「しょぼッ!! もはやお金ですらないッ!!(泣)」
忽那「まあまあ,上村.おまえはそんなもんだよ」
井手「ちなみにコレが指名手配書でござる」

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忽那「あ,いいじゃ~ん.なんかワンピースっぽくね? 海賊王っぽくね?」
上村「サラッと『DEAD OR ALIVE(生死を問わず)』って物騒なこと書いてますね……」
井手「そんなわけでお二人を捕まえに来たでござる! これから提示するNCGMの症例を診断できなかったら,おとなしくNCGMに帰るでござる!」
忽那「よかろう.だがオレが見事に診断できたら,おとなしくおまえがオレの代わりに当直をするんだぞッ!」
上村「無茶苦茶な理屈ですね……」

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症例:生来健康な38歳の日本人女性.
現病歴:20XX年4月4日より発熱,関節痛,悪寒が出現した.4月6日に近医を受診し咽頭発赤を指摘され対症療法が開始された.4月7日には咳嗽,咽頭痛が出現した.4月9日に近医を受診し,セフカペンピボキシルの投与が開始された.4月10日には全身に発疹が出現したため当院を受診した.
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忽那「ふむ……当初は発熱・悪寒・関節痛といった全身症状が前面に出ていたが,3日後から咽頭痛と咳嗽が出現し,さらにその3日後に全身の発疹が出現という経過だな」
上村「でもDUを飲んでから出現した発疹ですからね.薬疹を疑いたくなりますね.そもそも抗菌薬が必要な病態だったんですかねえ……」
忽那「うむ.上気道炎に対する抗菌薬の投与は本邦における抗菌薬適正使用の大きな課題の一つだな.2005年に行われた調査によると,急性上気道炎と診断された2,577人の患者のうち60%で何らかの抗菌薬が処方され,セフェム系(46%),マクロライド系(27%),キノロン系(16%)の順に多かったという【1】」
上村「溶連菌性咽頭炎や細菌性肺炎を除けば,上気道症状を伴う発熱には抗菌薬は不要ってことですよね」

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