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抗菌薬選択チェックメイトへの道(30)

[第30回]Queen’s Gambit

山田和範 やまだ かずのり
中村記念病院薬剤部係長/北海道科学大学客員教授

(初出:J-IDEO Vol.7 No.6 2023年11月 刊行)


医師 「新型コロナウイルスの濃厚接触で隔離中の患者さん,尿路感染症の疑いでセフトリアキソン(CTRX)を昨日から開始しました.同時に血培も取っています.他によい抗菌薬がありましたら連絡もらえますか?」
薬剤師 「どんな経過でしたか?」
医師 「5日前に左脳梗塞で入院になり,内科的治療をしていたのですが,病棟で新型コロナウイルスの陽性者が出て,同室のため濃厚接触者扱いで3日前から個室隔離になりました.隔離後も呼吸器症状は特にみられず落ち着いていましたが,入院時から微熱はありました.昨日は38.7℃の発熱がみられ,本人の排尿困難から尿道留置カテーテルも挿入したんです.尿カテ挿入してすぐに膿尿の流出もみられたので,尿路感染症を疑っています」
薬剤師 「そうなんですね.バイタルサインはいかがですか?」
医師 「入院時のID NOWTMは陰性でしたが37℃台の微熱がありました.一般的な脳梗塞の自然経過と同様に収縮期血圧(sBP)は110~160 mmHg台で推移していましたが,昨日91 mmHg台まで一過性に低下しました.午後には161 mmHg台に戻りましたが菌血症を起こしていたのかもしれません.このときの血培はすでに提出済みです」
薬剤師 「詳細な情報ありがとうございます.さらに診療録と各種培養検査の仮報告がきていないか確認いたします.何か新しい情報がありましたら連絡いたします」
医師 「よろしく!」

 当該患者が入院している病棟で診療録および検査結果を確認しました.

入院時現症

76歳,女性,身長155 cm,体重73 kg.
主訴 体動困難.
現病歴 当院入院日の昼12時ごろに家族が部屋を訪室した際,ベッドの横に落ちて倒れているところを発見された.本人は大丈夫というので様子をみていたが,改善されないため救急要請,当院へ搬入となる.
既往歴 大腸癌(34年前:J病院手術),腸閉塞(10年前:J病院腸切除),高血圧症(近医内科),糖尿病(近医内科).
アレルギー歴・副作用歴 なし.
飲酒歴 ほとんど飲まない.
喫煙歴 なし.

検査結果

血液検査:入院時
WBC 10,590/μL,Hb 10.0 g/dL,Hct 27.7%,
Plt 14.5×10⁴/μL,BUN 21.3 mg/dL,Cre 1.40 mg/dL,
AST 15 U/L,ALT 8 U/L,γ‒GTP 14 U/L,
Na 138 mEq/L,K 4.0 mEq/L,Cl 106 mEq/L,
Ca 7.1 mg/dL,Alb 3.3 g/dL,BS 140 mg/dL,
CRP 5.29 mg/dL,D-Dダイマー2.0μg/mL,
NT-proBNP 7,309 pg/mL.

血液検査:抗菌薬治療1日目(入院5日目)
WBC 23,990/μL,Hb 11.7 g/dL,Hct 33.1%,
Plt 23.8×10⁴/μL,BUN 19.0 mg/dL,Cre 1.42 mg/dL,AST 23 U/L,ALT 10 U/L,γ-GTP 15 U/L,
Na 141 mEq/L,K 3.8 mEq/L,Cl 103 mEq/L,
Ca 7.0 mg/dL,Alb 3.4 g/dL,BS 217 mg/dL,
CRP 6.67 mg/dL.

尿一般検査:抗菌薬治療1日目
pH 7.0,タンパク(2+),糖(-),潜血(-),
赤血球1-4/HPF,白血球30-49/HPF,
扁平上皮1-4/HPF,細菌(+).
胸部単純X線 明らかな浸潤影を認めず[図1].
頭部MRI:拡散強調画像
M2 Posterior trunk領域に脳梗塞を認める[図2].

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