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泣く子も黙る感染対策(25)

[第25回]新型コロナウイルスの職業感染予防

坂本史衣 さかもと ふみえ
聖路加国際病院感染管理室マネジャー

(初出:J-IDEO Vol.5 No.2 2021年3月 刊行)

はじめに

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が医療従事者の健康に与える影響について,世界保健機関(WHO)は以下の5つをあげている【1】.

・新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染するリスク
・不規則な長時間労働や個人防護具(PPE)を着用しながらの不慣れな作業に従事することによる身体的・精神的負担の増加
・消毒薬に含まれる化学物質への曝露機会や量の増加
・医療従事者に対する偏見,暴言・暴力
・自身や家族の健康に関する不安,PPEの供給不足,重症者や死亡者およびその家族の苦痛に触れることによる精神面への影響

 感染のリスクについていえば,他業種に比べて高いことは以前から知られており【2】,たとえばイギリスで行われた大規模調査によると,医療従事者が重症のCOVID-19に罹患するリスクは,その他の業種の7倍以上に上るとされている【3】.
 医療従事者が感染する機会は,職場,市中,家庭に存在する[表1].臨床において,COVID-19の診断が確定した患者と接触する際に,推奨されるPPEを着用し,推奨される手順に沿って丁寧な着脱と手指衛生を行う場合,感染するリスクはそれほど高いとはいえない.むしろ「感染者だとは思わなかった」患者と接する際に無防備に飛沫を浴びたり,エアロゾルを吸入したり,手指衛生を実施せずに接触感染するリスクのほうが高い.さらに,院内外でのマスクのない会話や食事で感染した無症状あるいは症状の乏しい医療従事者が発端となった院内集団感染事例は複数起きている【4,5】.

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