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Dr.岸田の 感染症コンサルタントの挑戦(19)

[第19回]新型コロナウイルス(SARS–CoV–2)と感染症コンサルタント ―医療者のパニックを防げ!―

岸田直樹 きしだ なおき
感染症コンサルタント/北海道科学大学薬学部客員教授

(初出:J-IDEO Vol.4 No.2 2020年3月 刊行)

新型コロナウイルスの広がりを振り返る

 2019年12月上旬に,武漢市は原因不明のウイルス性肺炎に感染した患者さんを初めて確認し,それが増えていることを発表しました.12月末日には,武漢市衛生当局が「原因不明の肺炎に関する緊急通知」を出し,2020年1月1日にはウイルスの発生源と指摘されている武漢市の海鮮市場の閉鎖が発表されていました.そして,1月9日になり,武漢市で多発している原因不明の肺炎は新型のコロナウイルスによるものであると中国国営放送が報道しました.ちょうど,原因不明の肺炎が確認されてから1ヵ月経過した頃のことでした.
 今は,いろいろと大変なことになっていますが,思えば「何かまずいことが起こり始めている」と,世界がどよめき出したのはこのくらいからでしょう.中国の専門家チームのトップが「ヒト-ヒト感染」が起こっていることを明らかにし,習近平国家主席が,新型コロナウイルスによる肺炎に対して「断固としてウイルスの蔓延を阻止するように」と初めて指示を出したのはようやく1月20日になってからという状況でした.そして,1月23日に衝撃的な武漢閉鎖となりました.感染症を専門とする皆さんが「そろそろ本格的にやばいのでは?」と思い始めたのもこのくらいではなかったでしょうか? ここから皆さんは怒涛の日々を送っているものと思いますが,この新型コロナウイルスの経緯が意外と振り返られていないと思い,確認してみました.
 中国の初期対応の遅さが指摘されていますが,感染症の広がりよりもウイルスの特徴によるものも大きく,1月後半はあっという間に世界を巻き込む事態になった印象があります.そして,2020年1月30日,WHOは新型コロナウイルスの世界的な拡大に対して,「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態[PHEIC(フェイク),public health emergency of international concern]」に該当する旨を宣言しました.
 このような新型ウイルスの発生により,きわめて短期間に感染チームが新しい難題に立ち向かうことになってしまう,これぞ感染症を専門とするチームの宿命ではあるのですが,いざそれが目の前に降りかかってくるとさまざまな苦労を経験します.今回は,この新型コロナウイルスの発生の初期段階で,感染症コンサルタントとしてどのようにコンサルト病院と関わったか? 何が大切だったか? を考えてみたいと思います(2020年2月1日現在).

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