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Dr.岸田の感染症コンサルタントの挑戦(16)

第16回 AST への抗菌薬相談! 困るシチュエーション
ASTとしても「感染症かどうかわからない……」への対応法 ②


岸田直樹 きしだ なおき
感染症コンサルタント/北海道科学大学薬学部客員教授

(初出:J-IDEO Vol.3 No.5 2019年9月 刊行)

はじめに

 前回は,ASTとしての介入のなかで,「感染症かどうかさっぱりわからない」症例にどのようにアプローチするかについて考えてみました.ASTの介入では基本的には感染症の病名がわかっている段階で介入したいところですが,「熱が出たのでとりあえず広域抗菌薬」となっている事例も多々あります.熱の原因をはっきりさせていない状況での広域抗菌薬投与をみるととてもイライラしてしまいますが,ここはグッとこらえましょう.もし培養を採ってくれているのであれば,「培養を採っていて熱源がはっきりしないというのはとても大きな情報です」と言えるようになりましょう〔「培養を採っていてすばらしいですね」と褒めると嘘っぽいです(笑)〕.また,ASTに向こうから相談してきてくれているのであれば,相談してくれていることに素直に感謝しましょう.まさか「CRPが下がらないで相談してくるなんてレベル低い」なんて言っていませんか? 相談される内容に違いはあれど,相談されるレベルなどと言ってはいけません.そうなっているのは,あなたの院内での感染症教育不足によるのではないですか? ストレスの多い仕事かもしれませんが,自分のせいでイライラせずに,認識の修正を日々心掛けましょう.
 さて,今回は「感染症かどうかわからない……」の後編です.

「感染症かどうかさっぱりわからない」場合

 感染症医にコンサルトされる症例のなかには,正直最初は感染症かどうかわからない場合があります.感染症医にコンサルトされる理由の一つとして,「熱の原因がわからない」という場合があるのですが,熱の原因は感染症だけではありません.薬剤熱や腫瘍熱,そして高齢化により偽痛風など非感染性の原因もとても多いのです.また,「CRP高値の原因として感染症ではないか」というコンサルトもよくあるのですが,CRPは炎症性疾患としての感度は高いですが,薬剤熱や腫瘍熱でも当然上昇するので最終的なコンサルト時には判断が悩ましい症例も多いのです.前回は,コンサルト時点では熱の原因が感染症かどうかすらはっきりわからない症例を考えてみました.
 今回も具体的なあるある事例で「感染症かどうかわからない」場合にどのような対応がよいかを考えてみたいと思います.

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症例

胃癌術後イレウスで入院中の患者.イレウスのコントロールに苦渋し,中心静脈栄養開始後7日目に悪寒戦慄を伴う39℃の発熱あり.翌日も発熱以外に症状を認めず,ややぐったりであったため使用すべき抗菌薬と熱源に関して感染症科にコンサルトとなった.朝の時点では報告はなかったが,コンサルト後に,昨日提出となったカテーテル逆血と末梢血培養のうち,カテーテル逆血のみ陽性で,形態的にはブドウ球菌の疑いと細菌検査室から連絡があった.
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 さて,みなさんはどのように対応するでしょうか.
 いくつか対応方法がありそうですね.
 次のA,B,Cのどの対応を皆さんは選びますか?

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