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本質の感染症(16)

本質の感染症(16)
[第16回]未来化
岩田健太郎 いわた けんたろう
神戸大学大学院医学研究科微生物感染症学講座
感染治療学


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 視点を未来に持っていきたい.最近,思っているのはそういうことだ.

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 たとえば,働き方.本稿を執筆しているとき,「働き方改革」なるものがさかんに議論されているが,これはみんなまあ,「現在目線」の「改革」に過ぎない.

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 こういう「改革」は,所詮,基本的には昭和でブラックな労働価値観を引きずったままで,いかに他人から批判されないようにやんわりとシステムを作り,「ブラック」と呼ばれないかに汲々としている.もっとぶっちゃけて言えば,いかに労働基準法違反にならないように,かつ残業代を払わないように仕事させるか,っていう議論である.

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 どこの病院の病院長もこういうコンテクストで「働き方改革」を論じている.

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 そういう弥縫策に徹して,「現在の」周りの連中(昭和の価値観にどっぷり浸かってる連中,役人とかジャーナリスト)に批判されないためのみみっちい方針変更なら,やらないほうがまだましだ.こういう「改革」,皮肉にも仕事増えてるんじゃないか? 事務方の.

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 大事なのは未来の視点だ.未来人がやってきて,われわれのやっている仕事を見て,「なるほど,当時の人々はこういう労働問題を抱えて,こうやって克服していったんだな」と納得してもらえるような改革.これこそが「働き方改革」である.過去の視点で現在をこねくり回すのではなく,未来の視点から現在に活路を見出すのである.われわれの子どもたちの世代から蔑まれないような,「改革」というならばそういう本質的な変化を望みたい.改革とは現在の価値を壊すものだから,現在の価値では推し量れないのだ.未来の価値を切り開くことこそが,改革.現状の価値の圧力に縛られていては,もちろんできないことだよ.ニュータイプだよ,ニュータイプ.

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 さて,感染症の話に戻します.HPVワクチンの問題です.

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