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抗菌薬選択チェックメイトへの道(8)

抗菌薬選択チェックメイトへの道(8)
[第8回]ショックとアンチバイオグラムとときどき私
山田和範 やまだ かずのり
中村記念南病院薬剤部係長


医師 「昨日の夜間に39.2℃まで発熱した入院患者さん.尿路感染症を疑っています.お勧めの抗菌薬はありますか? 各種培養検査は本日オーダーしています.尿路感染症であればE. coliの可能性が高く,先日配布してもらったアンチバイオグラム[表1]からは感性率7割のセフォチアム(CTM)あたりを開始すればよいですかね?」

[表1]アンチバイオグラム(E. coli)

薬剤師 「アンチバイオグラムの確認ありがとうございます.尿路感染症ですか? 抗菌薬の提案前に患者さんの様子を確認させてください.各種検査結果も踏まえて連絡したいと思います」
医師 「わかりました.これから外来診療なので何かあれば連絡ください」

Point!
アンチバイオグラムの利用は重症度の評価を行ったうえで感性率8割以上あるものが望ましい※.ただし,重症度によっては感受性が判明するまでエンピリックな広域抗菌薬の使用もやむを得ない.

※  推定菌の感性率は高ければ高いほどスペクトルを「外す」可能性は低くなるが,重症度に関係なく感性率100%のものだけ使用するのは,すべてカルバペネム系抗菌薬で開始といった極論になってしまう懸念があるため,施設内の起因菌に対してエンピリックに使用する抗菌薬のコンセンサスを得ておくとよい.

 早速,当該患者が入院している病棟で診療録および,検査結果を確認しました.

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コンサルト時現症
89歳,女性,身長147 cm,体重36.2 kg
主訴 発熱,意識障害
現病歴 パーキンソン病,およびアルツハイマー型認知症で当院かかりつけの患者.1年前にデイサービス中,食事を喉に詰まらせた後,誤嚥性肺炎を発症し当院へ入院.肺炎は治癒したが,その後,気管切開し,栄養および内服薬は経鼻胃管より投与となっていた.長期療養中に急な発熱を認めたため抗菌薬の選択を含めコンサルトとなった.
既往歴 子宮筋腫(33年前),心臓弁膜症(5年前),変形性膝関節症,アルツハイマー型認知症,パーキンソン病
アレルギー歴・副作用歴 なし
飲酒歴 現在は飲まない
喫煙歴 なし

検査結果(コンサルト時)
血液検査
WBC 25,100/μL, Hb 11.5 g/dL, Hct 34.2%,Plt 11.5×104/μL, Na 134 mEq/L, K 3.6 mEq/L,Cl 96 mEq/L, BUN 39.2 mg/dL, Cr 1.96 mg/dL,T—bil 0.3 mg/dL, AST 109 U/L, ALT 33 U/L,γ—GTP 12 U/L, CRP 26.76 mg/dL
尿一般検査
pH 8.5,WBC 30~49/HPF,タンパク(2+),尿糖(-),細菌(+)
胸部単純X 線 明らかな浸潤影なし[図1]

[図1]胸部単純 X線写真(臥位)

内服薬服用歴
・ブロモクリプチンメシル酸塩錠(2.5 mg)
 1回1錠 1日2回朝夕食後
・レボドパ/カルビドパ水和物配合錠(100 mg)
 1回1錠 1日3回毎食後
・ブロムヘキシン塩酸塩錠(4 mg)
 1回1錠 1日3回毎食後
・ドロキシドパOD 錠(100 mg)
 1回2錠 1日3回毎食後
・酪酸菌(宮入菌)製剤
 1回2錠 1日3回毎食後
・アンブロキソール塩酸塩錠(15 mg)
 1回1錠 1日3回毎食後
・ガランタミン臭化水素酸塩OD 錠(12 mg)
 1回1錠 1日1回朝食後
・フドステイン錠(200 mg)
 1回2錠 1日3回毎食後
・グルコン酸カリウム錠(2.5 mEq)
 1回1錠 1日3回毎食後
・耐性乳酸菌製剤
 1回1 g 1日3回毎食後
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 診療録および温度板からは,普段の血圧は多少の変動があるものの120/60 mmHg前後で推移し,脈拍は70 bpm前後で落ち着いていました.訪室時の体温は38.7℃で,血圧は90/54 mmHg,脈拍は100 bpmとshockが疑われるバイタルサインでした.意識レベルはJCSⅢ—100で刺激に対し覚醒しない状態で「はぁはぁ」と浅い呼吸をしていました.SpO2は室内気で92%,呼吸数は34/分と頻呼吸を認めましたが肺雑音は聴取されませんでした.3ヵ月以内の抗菌薬の使用歴はなく,耐性菌の保菌歴も特にありませんでした.栄養はNGチューブから経腸栄養が投与されていました.2週間前に尿道カテーテルが抜けてオムツ対応されていましたが本日から尿道カテーテルを再挿入されていました.
 少しすると尿と気管内採痰のグラム染色所見が判明しました.

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