本質の感染症(17)
本質の感染症(17)
[第17回]賃金低下,いや低化
岩田健太郎 いわた けんたろう
神戸大学大学院医学研究科微生物感染症学講座
感染治療学教授
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本稿執筆時点で,「無給医」の問題が議論されている.
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もちろん,「無給医」は公然の秘密だった.給料がない,ほとんどない,生活できるレベルでない状況での大学病院での労働を医者が強いられる.
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では,なぜ「無給医」が生じるのか.
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中山祐次郎氏によると,その理由は3つ,すなわち
・勉強したいから無給
・大学院生で無給
・医局の都合で無給
である〔中山祐次郎.Yahoo! ニュース「なぜタダで働くのか? 「無給医」たちの現実 ~医師の視点~」(2018年10月28日).https://news.yahoo.co.jp/byline/nakayamayujiro/20181028-00102034/(Accessed 2019/7/23)〕.
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このうち,「勉強したいから無給」はぼく自身経験したことがあるし,現在でも神戸大学病院感染症内科では提供している選択肢だ.
これは職務というよりも修行,技術や知識をつけるために行う研修のようなものである.
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たとえば,ぼくは90年代の終わりに,ペルーで1ヵ月間,熱帯医学研修を受けていたが,基本的に無給だったのみならず,「授業料」を払っていた.まあ当時のお金で数万円だったけど.ぼく自身,スペイン語の能力は大したことないし,むしろリマの医学生の後ろについて回っているだけで,足を引っ張りこそすれ,病院の収益にはまったく貢献していなかった.「給料を払え」と偉そうに言える立場ではなかった.
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神戸大学病院感染症内科では1ヵ月から3ヵ月程度の病院実習サービスを提供している.これもペルーでのぼくと同様で,基本的に「勉強」目的である.うちのフェロー(後期研修医)たちと一緒に回診して,僕らと一緒にカンファレンスをやって,カルテを書く.業務をしているといえばしているが,スチューデント・ドクターのような役回りでもあり,意思決定はしない.それに,こうした短期研修生の多くは別の病院からの派遣であり,元病院から給与は出ている.こういう場合は無給は妥当だ.ぼくはそう思う.
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大学院生で無給.これはちょっとトリッキーだ.
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