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抗菌薬選択チェックメイトへの道(10)

抗菌薬選択チェックメイトへの道(10)
[第10回]見えない相手が見えたとき
山田和範 やまだ かずのり
中村記念南病院薬剤部係長


医師 「昨日夜間に,救急から右上下肢脱力を主訴に入院となった患者さん,本日の画像カンファレンスでは多発性硬化症(MS)や腫瘍というよりは脳膿瘍の可能性が高いと判断されました.さっそく抗菌薬を開始しようと思うのですが何が良いですかね?」
薬剤師 「脳膿瘍ですか.これまたなかなかシビアな感染症ですね.バイタルは切迫した状態ですか?」
医師 「少し血圧が低めで発熱も認めますが,現在はそれほど切迫した状態ではありません.しかし,状況はそれほど楽観的でもありません」
薬剤師 「そうですか.それでは病歴などを診療録で確認後,患者さんの状態を見てから,推奨抗菌薬について早めに連絡いたします」

Point!
「待てない」状況でなければ,患者さんの病態を把握してから推奨抗菌薬を提案!

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入院時現症
49歳,女性,身長160 cm,体重70.2 kg
主訴 右上下肢脱力
現病歴 当院受診前日から頭痛,右上肢のしびれを自覚.受診当日の16時頃から右下肢脱力あり.その後,右上肢脱力も出現したため救急要請.MRIで左前頭葉に腫瘤性病変が認められ精査目的で入院となった.
意識清明,右上肢MMT3/5,右下肢MMT4/5,構音障害あり.
既往歴 腰椎ヘルニア(20年前)
アレルギー歴・副作用歴 ○○マイシン(薬品名不明)でショックの既往あり(詳細不明).
飲酒歴 ほとんど飲まない.
喫煙歴 喫煙歴あり1年以上禁煙.
内服薬服用歴 なし

検査結果(入院時)
血液検査
WBC 9,900/μL, Hb 14.1 g/dL, Hct 42.0%, Plt 24.9×104/μL, Na 138 mEq/L, K 3.5 mEq/L, Cl 103 mEq/L, BUN 11.7 mg/dL, Cr 0.65 mg/dL, T—bil 1.6 mg/dL, AST 23 U/L, ALT 26 U/L, γ—GTP 19 U/L
頭部MRI所見
左前頭葉に腫瘤性病変を認める[図1,2].

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