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泣く子も黙る感染対策(21)

[第21回]検査でCOVID-19の院内感染を防ぐことができるか

坂本史衣 さかもと ふみえ
聖路加国際病院感染管理室マネジャー

(初出:J-IDEO Vol.4 No.4 2020年7月 刊行)

❶ 院内感染の水際対策としてPCR検査に寄せられる期待


 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について,2020年4月20日に全国医学部長病院長会議が「無症状であっても,手術や分娩,内視鏡検査,病理検査あるいは救急医療などの診療実施前,また病理解剖を行う際に院内感染を予防するための水際対策として無症候の患者に対してPCR検査が必要」とする声明文を発表した【1】.これに引き続いて,日本内科学会,日本感染症学会をはじめ,多数の学会が同様の声明を発表,あるいは対策を推奨するようになった【2】.
 米国感染症学会(Infectious Diseases Society of America,IDSA)は緊急性の高い全身麻酔下手術(3ヵ月以内の実施を要する手術)を受ける患者で,感染者との接触歴のない無症状の患者に対し,術前48~72時間以内に遺伝子検査を実施することについて,きわめてエビデンスに乏しい(very low certainty of evidence)対策として弱く推奨(conditional recommendation)している.ただし,内視鏡検査などのエアロゾル産生手技を行う患者への検査には反対している【3】.米国疾病対策センター(CDC)および世界保健機関(WHO)は現時点で接触歴のない無症状者に対する検査を推奨していない【4,5】.
 現在COVID-19の診断には,遺伝子検査(以下,PCR検査)と抗原検査が活用されている.前者は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に特異的なRNA遺伝子配列をリアルタイムRT-PCR法などで増幅して検出する検査であり,後者は酵素免疫反応を測定原理としたイムノクロマト法によりSARS-CoV-2特異蛋白を検出する迅速検査である.厚生労働省は抗原検査について,ウイルス量が低い場合は検出感度が下がることから,抗原検査を無症状者に使用することは適さないとしている【6】.したがって「院内感染の水際対策」として期待されているのはPCR検査である.
 無症状の患者に対する検査によって院内感染を防ぐには,以下の条件が満たされなくてはならない.
  ① 感染者が高い確率で陽性と判定される(検査の感度が高い)
  ② 陽性の検査結果が高い確率で感染していることを意味する(陽性的中率あるいは事後確率が高い)
  ③ 結果が早く得られる(turnaround timeが短い)

 これらの条件に照らし合わせながら,PCR検査を院内感染の水際作戦として行う意義について考えてみたい.

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