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本質の感染症(13)

本質の感染症(13)
[第13回] 知性の劣化
岩田健太郎 いわた けんたろう
神戸大学大学院医学研究科微生物感染症学講座
感染治療学教授


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 本稿を書いているその日,インフルエンザでゾフルーザ®(バロキサビル)を処方された患者が急性発症の肝不全,腎不全を起こして某病院ICUに入院している.まだ何も証明されたわけではないが,病歴からはゾフルーザ®の副作用であった可能性が高いと考えている.薬剤師さんがメーカーに問い合わせたところ,すでに同様の報告は数例あるのだという.

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 ゾフルーザ®が重症多臓器不全という副作用の原因となるのか.現段階では,何も言えない.が,仮にそうだったとしてもぼくにはなんの驚きもない.新薬とは「そういうもの」だからだ.あと,本稿執筆時点では「耐性ウイルス」の「出現」が話題になっているが,これも臨床試験の段階ですでにわかっていたことで,なんの驚きもない.

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 ゾフルーザ®でわかっているのは成人で「プラセボより解熱が早い」,「タミフルと(まあ)引き分け」,「小児では使った経験がある」くらいなものだ(臨床的には).多様で大量の患者で使った場合の安全性についてはまったく未知のブラックボックスである.だいたい,タミフルの「異常行動」の因果関係ですら,ある程度の決着をつけるまでにものすごく時間がかかったのだ.ましてや経験値が乏しい新薬では「わからないことだらけ」である.

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 なぜ,「わからないことだらけ」な薬を処方するのか.ぼくには到底,理解できない.

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