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抗菌薬選択チェックメイトへの道(26)

[第26回]青い砲弾を迎撃セヨ!

山田和範 やまだ かずのり
中村記念病院薬剤部係長/北海道科学大学客員教授

(初出:J-IDEO Vol.6 No.4 2022年7月 刊行)

医師「先ほど細菌性髄膜炎を疑われてA病院から転送されてきた47歳男性の患者さん,これから腰椎穿刺します.Empiricに抗菌薬を開始したいと思いますが推奨薬はありますか?」
薬剤師「細菌性髄膜炎で転入院ですか.意識障害はありますか? 発症はいつからですか?」
医師「A病院からの情報では,発熱と頭痛,軽度意識障害があり,肺炎球菌尿中抗原が陽性だったようです.当院到着時の体温は41.3℃,頭痛のため軽度失見当識と,血圧は182/120 mmHgで上昇がみられますが脈拍は73回/分,呼吸状態は室内気でSpO₂ 99%と落ち着いています.入院時のID-NOWTMは陰性で新型コロナウイルス感染症は否定的です」
薬剤師「そうですか.細菌性髄膜炎への抗菌薬開始のタイミングは,受診から30分以内とされ,できるだけ早く治療開始するのが基本になります.腎機能はいかがでしょうか?」
医師「入院時の採血結果はまだ出ていませんが,特に目立った既往はなく腎機能も問題ないと思います」
薬剤師「そうですか.初回投与なので肺炎球菌性髄膜炎と考えてempiricに通常使用量でバンコマイシン(VCM)1回1 g 1日2回,セフトリアキソン(CTRX)1回2 g 1日2回それぞれ点滴静注でよろしいかと思います.VCMの血中濃度採血は投与3回目の投与前のトラフ値と点滴終了1時間後のピーク値2点採血オーダーよろしくお願いします」
医師「わかりました.VCMとCTRXをこれからすぐに開始します.A病院での肺炎球菌尿中抗原陽性情報から,デキサメタゾンも本日から開始しようと思います.その後,腰椎穿刺して髄液培養も提出します.VCMの採血指示も入れておきますね」
薬剤師「ありがとうございます.デキサメタゾン開始の際は,抗菌薬投与前か同時に投与いただければと思います.血液培養2セットもお忘れなくよろしくお願いします」

Point!

細菌性髄膜炎の抗菌薬治療開始はASAP(as soon as possible)!

Point!

肺炎球菌性髄膜炎のempiric therapyはペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)も想定したVCM+CTRXを髄膜炎用量で!

返答後,当該患者が入院している病棟で診療録および,検査結果を確認しました.

入院時現症

47歳,男性,身長169 cm,体重70 kg.
主訴 発熱,頭痛,言葉がうまく話せない,失見当識
現病歴 当院入院2日前の朝より体温37℃台,夕方より39.8℃に上昇した.翌日,近医クリニックを受診.当院入院当日,体温40℃,言葉がうまく話せない,見当識障害があり,はじめに近隣のA病院に救急搬送された.A病院で肺炎球菌尿中抗原陽性となり細菌性髄膜炎を疑われ当院へ転院となる.当院搬送時JCS Ⅱ-20,傾眠,前頭部に頭痛,明らかな四肢の麻痺なし.クリニックで施行された新型コロナウイルスPCR検査の結果は未着.
既往歴 腰痛症(数年前からたまに近医整形外科を受診している)
アレルギー歴・副作用歴 なし
飲酒歴 ほとんど飲まない
喫煙歴 なし

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