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微生物検査 危機一髪!(32)

[第32回]カルテから読み取る微生物検査の考え方

山本 剛 やまもと ごう
大阪大学感染症総合教育研究拠点(CiDER)
大阪大学医学部附属病院感染制御部

(初出:J-IDEO Vol.6 No.4 2022年7月 刊行)

普段,何気なく手に取る検体や培地,そしてグラム染色所見から患者背景を想像し,その正解を探すためにカルテから患者情報を読み取ることをどの程度されているでしょうか?
 たとえば,血液培養ボトルが陽性になりアラームが出ると「ああ,○○○」と感じると思いますが,この“○○○”には皆さん何が入りますか? “陽性か……誰やろ”でしょうか,“陽性か.あの患者さんかな?”でしょうか,それとも“この時間に陽性か”でしょうか.血液培養陽性の結果一つにしても,施設間差や検査者間差,陽性となった時間にも差があり,個人によってその反応も変わってくるのでしょう.
 一つの検体をとっても,その臨床的意義づけは異なり軽症から重症,肺炎か尿路感染症,記念培養(メモリアルカルチャー:メモカル)か本気培養(マジカルチャー:マジカル)か,などは検体には書いていないため,結果をどれだけ急ぐのか,何を検出してほしいのかもわからないことがあると思います.1つの検査にはそれなりの意味があるのですが,目的菌を伝えるとそれに合わせた培養をしてくれたり,目的菌と異なる微生物(たとえば,Staphylococcusが出ると予測された中心静脈カテーテルから出たCandidaなど)が出た場合には結果が早く報告されてくるなどといった,オーダーメイド的な検査結果を得ることはできません.なぜ理解しにくいのか,今回は症例を読み取りながら微生物検査の結果報告について考えていきます.

1.カルテ情報の整理と理解

感染症診療は対象となる範囲が広く,重症や軽症,年齢を問わず,対象となる臓器も1つから隣接臓器,遠隔臓器に至るため幅広いアプローチが必要になることもあります.当然,感染症診療に欠かせない微生物検査も幅広い検体が対象となり,たとえば血液培養のように全身感染症を想定した血液検体から,耳漏のように特異的な組織を対象とした膿汁まで提出されてきますので,個々の検体について臨床的意義づけを行うことが求められ,そのために患者情報を取得するのが合理的なやり方と思われます.
 直接ベッドサイドに伺い患者情報を取得し,診断内容や治療方針について確認するのがよいでしょうが,検査室業務と並行してベッドサイドへ出向くことは難しく,代わりにカルテから患者情報を収集することが大切になります.

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