日本全国感染症ケースカンファレンス道場破り（12）
［第12話］NCGMからの追手2
（vs国立国際医療研究センター　山元　佳）
忽那賢志　くつな さとし
国立国際医療研究センター国際感染症センター／国際感染症対策室医長

忽那「長崎まであと50 kmか……今日はこの辺で野宿にするか……」
上村「先生，僕そろそろこの生活に疲れてきたんですけど．たまにはホテルに泊まりませんか？」
忽那「軟弱なことを言うんじゃないッ！　柔道着を着て，野宿をしながら，歩いて全国各地を回る……それが道場破りの醍醐味だろうが！　あと金もないしな……」
上村「でもこんな山のなかで寝たらクマとかに襲われますよ」
忽那「クマなんて出ないって．心配性だな，上村は」
山元「……おい」
上村「ギャー!!!」
忽那「クマだあああああああああああああああああああああああああああああああああッ！」
上村「助けてえええええええええええええええええええええええええええええええええええ」
忽那「上村！　死んだふりだッ！　死んだふりッ！」
山元「……」
上村「えっ……あ，よく見たら人間ですね」
忽那「なんだ，NCGMの山元じゃないか……あービックリした……山元ってクマっぽいもんな」
上村「まったく人騒がせですよね……山元先生，こんなところで何やってるんですか？」
山元「……おまえら，捕まえに来た」
忽那「え，なに，おまえもオレたちを捕まえに来たの？　もしかしてまだオレたち指名手配されてるの？　いやー，人気者は辛いな～．こないだは報奨金5,200円だったけど，こないだサクッと返り討ちにしたし，倍くらいいってるんじゃないかな，オレ」
上村「僕も前回は缶コーヒーだったんですけど，そろそろ報奨金がつきましたかね……」
山元「……これだ」

上村「ププッ……たったの50円アップですね……」
忽那「刻んできたなあ……1万円越えまで果てしないな……」
上村「たぶんその前にこの連載，打ち切りですよね」
忽那「うるさい！　上村だって缶コーヒーのままじゃないか！」
上村「缶コーヒーをバカにしないでください！　飲食メーカーに訴えさせますよ!!」
山元「……オレ，症例出す．おまえら，連れて帰る」
忽那「いいだろう！　5,250円のためにここまで来た根性，見上げたものだッ！　受けて立とうじゃないかッ！　またこの前の井手のように返り討ちにしてくれるッ！」
山元「……」

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症例は生来健康な20歳代男性．発熱，両側眼球結膜の充血が出現し，第2病日には39℃を超える高熱を呈したため，近医を受診し，ロキソプロフェン，ガレノキサシンが処方された．第3病日に体幹，四肢，顔面に皮疹が出現した．その後も発熱は持続しており，第5病日に軽度の頭痛が出現し，同日深夜に軽度の嘔気を訴えた後，全身性痙攣を認めたため救急要請された．
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忽那「痙攣か……なんだかやばそうだな」
上村「発熱，頭痛，嘔気，そして痙攣……これって髄膜炎とか脳炎とかの症状ですよね？」
忽那「そして皮疹か……髄膜炎だとすると，髄膜炎菌性髄膜炎が想起されるところだな」
上村「でも疫学的には日本では髄膜炎菌感染症は稀ですよね？」
忽那「うむ．だが国内事例もときどき報告されているし，海外渡航歴もあるかもしれないしな」

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特記すべき既往はなく，薬剤や食物に対するアレルギーもない．過去1ヵ月以内の海外渡航歴はないが，2週間以内に福島県への出張があった．都内在住の会社員で，妻との2人暮らしである．ペットは飼っておらず，また明らかな発疹を呈する患者との接触はなかった．
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忽那「福島への出張……怪しいな」
上村「福島県といえば……ツツガムシ病とかどうですか？　発熱と皮疹だし」
忽那「まあ出張業務で果たしてツツガムシに曝露する機会があるのかはわからんが……確かにツツガムシ病でも髄膜炎を起こすことはあるしな」
上村「傾向と対策としては，この連載って妙にベクター関係の感染症が多いんですよね．たぶん筆者の趣味で．なので結構可能性高いと思います！」
忽那「上村，鋭いな！」
山元「……身体所見」

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開眼はするが意思疎通は不可，体動はあり左右差なく動かしている．バイタルサインは体温36.6℃，血圧120／60 mmHg，脈拍68回／分，呼吸数22回／分，SpO2 99％（室内気）．両側眼球結膜は充血しており，項部硬直などの髄膜刺激症状はなかった．表在リンパ節腫脹は認めない．胸部，腹部所見に異常はみられなかった．
顔面，四肢，体幹に[図1]のような皮疹を認めた．