note用ヘッダー画像

日本全国感染症ケースカンファレンス道場破り(14)

日本全国感染症ケースカンファレンス道場破り(14)
[第14話]神戸の決戦 その1
(vs神戸大学医学部附属病院感染症内科 西村 翔)
忽那賢志 くつな さとし
国立国際医療研究センター
国際感染症センター/国際感染症対策室医長


上村「あれ……ここ神戸って書いてますけど……鹿児島に行くんじゃなかったでしたっけ?」
忽那「上村よ……いろんな大人の事情があるのだ……」
上村「ああ,まだ論文化されてない症例を道場破りしようとして,論文掲載まで保留になっちゃったってことですね」
忽那「皆まで言うんじゃないッ! というわけで,もうこの道場破りもだいぶ煮詰まってきたし,そろそろ最終局面を迎えることにするぞッ!」
上村「最終局面,といいますと……?」
忽那「もちろん,ラスボスを倒すのだ」
上村「え,この道場破りにラスボスがいたんですか? ちなみにラスボスって誰ですか?」
忽那「そりゃこのJ—IDEOの編集主幹の人に決まってるだろうが」
上村「ええ~~!! 無理っしょ! 叩きのめされるだけっしょ!」
忽那「やってみないとわからんだろうが! つーか,負けても連載が終わるわけじゃないし,とりあえず勝負してみようじゃないか!」
上村「絶対無理だと思いますけどね……」

忽那「よし,神戸大学医学部附属病院に着いたぞ……岩田教授,出てこ~い! いや,出てきてくださ~い!」
上村「先生,すでにちょっと弱気なんですけど」
忽那「こういうのは礼儀が大事なんだよ」
西村「誰だ貴様らは!」
忽那「あれ,こんな一休さんみたいな人だったっけ,岩田先生って」
上村「先生,すでに礼儀を忘れてますよ」
西村「岩田教授はすでに帰宅されている……神戸大学感染症内科はオン・オフがはっきりとしており,勤務時間が終わると皆すぐに帰宅するのだッ! こんな時間に来ても誰もいないぞッ!」
忽那「つまりいるのは一休さんだけか……」
上村「一休さんは帰宅しないんスか」
西村「オレは当直だッ!」
忽那「なんだ,岩田教授はいないのか……じゃあとりあえず一休さんに勝って『東に忽那あり』を知らしめて,後日また勤務時間内に来るとするか……」
上村「勤務時間内に来たとしても『道場破りなんて勤務と関係ないから』って相手にしてもらえない気がしますけどね……」
忽那「うるさいッ! 一休さん,オレと勝負だ」
西村「いいだろう,貴様など教授が出るまでもない……オレが蹴散らしてくれるわッ! では症例を提示する!」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
65歳男性が意識障害を主訴に受診した.
転院の35日前,全身倦怠感が出現した.駐車場に停めている自分の車をボコボコ殴っていたところを目撃されている.34日前,自宅で倒れているところを発見されA病院に搬送された.A病院では40℃近い発熱と意識障害(JCS 3)があり,頭部MRIが撮影されたが陳旧性脳梗塞のみであり,高熱と意識障害の原因は熱中症だろうと判断された.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

忽那「熱中症か……ということは季節は夏だな」
上村「ちゅーか,駐車場に停めてる自分の車をボコボコ殴るって……明らかに様子がおかしいでしょ!」
忽那「そうか? オレも後輩がオレよりいい車に乗ってたから悔しくて泣きながら自分の車をボコボコしたことあるぞ?」
上村「しょうもないエピソードを披露しないでください! やっぱり異常行動ですよ,これは.脳炎や髄膜炎などを考慮すべきではないでしょうか」
忽那「考え過ぎじゃないか……?」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
入院当日(転院34日前)の夕方,意識障害が進行し,脳炎・髄膜炎が疑われたため腰椎穿刺が行われた.髄液検査では細胞数32/mm3,蛋白32 mg/dL,糖64 mg/dLであった.再度脳炎の除外のために頭部MRIの再検が行われたところ,左視床にT1画像で高信号域がありB病院へと転院となった.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

上村「ほら,やっぱり髄液検査で細胞数が上がってるじゃないですか!」
忽那「やはりな……オレの思った通り脳炎か髄膜炎だな……」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
B病院に到着後,JCS10程度の意識障害と右片麻痺の所見がみられたことから脳梗塞と診断された.また細菌性髄膜炎が否定できないためセフトリアキソンおよびバンコマイシンが投与開始された.
B病院入院3日目(転院の32日前)に再度髄液検査が行われたところ,細胞数375/mm3と上昇がみられたためアシクロビルおよびガンマグロブリンが開始された.
その後,数日かけて麻痺は両側へと進行していったという.発熱は次第に37℃台へと下がっていった.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

上村「うーん……最初は脳梗塞が疑われる右片麻痺だったようですけど,両側になってきたってことはやっぱり脳梗塞じゃないんですかねえ……髄液細胞数も増加してますし」
忽那「細菌性髄膜炎も疑われて抗菌薬は入っているようだな」
上村「あとヘルペス脳炎も疑われてアシクロビルも入ってますね」
忽那「しかしこれはまずい状況だな」

ここから先は

6,849字 / 5画像

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?