見出し画像

抗菌薬選択チェックメイトへの道(28)

[第28回]Ruy Lopez~ESBL検出歴あり! 定石は?~

山田和範 やまだ かずのり
中村記念病院薬剤部係長/北海道科学大学客員教授

(初出:J-IDEO Vol.7 No.2 2023年3月 刊行)

医師「維持期病棟で入院中の患者さん,39.2℃の発熱がみられて,看護師さんからの情報ではサクションの喀痰量も多いとのことでしたので誤嚥性肺炎を考慮して,とりあえずスルバクタム/アンピシリン(SBT/ABPC)をオーダーしました.痰と尿培養もオーダーしたのでグラム染色の情報と他に推奨抗菌薬ありましたらよろしくお願いします」

Point!

「とりあえず」の抗菌薬には要注意!

薬剤師「誤嚥性肺炎ですか.誤嚥性肺炎でしたら嫌気性菌カバーまでされていてempiricには妥当な選択かと思います」
医師「看護師さんからの情報では,発熱前から喀痰の量は多く,喘鳴はないようですが両側肺副雑音が聴取され,SpO₂は低くなると94%,落ち着くと98%で時折いびき様呼吸あり,自己排痰困難なため誤嚥性肺炎のリスクは高いとの報告を受けました」
薬剤師「バイタルサインはいかがですか?」
医師「収縮期血圧は普段110~140 mmHgで推移していましたが,昨日から160~170 mmHgに上昇していました.本日の最高体温を記録した時点では収縮期血圧は150 mmHg台に低下していましたが循環は問題ないです」
薬剤師「血液培養は採取されましたか?」
医師「痰と尿の培養をオーダーしたからとりあえずよいと思いました.それぞれのグラム染色の情報から何かおすすめあったら連絡ください」
薬剤師「そうですか⤵ 承知しました」

 当該患者が入院している病棟で診療録および,検査結果を確認しました.

現症

70歳,女性.身長150 cm,体重51.3 kg.
主訴 発熱,自己排痰困難
現病歴 5ヵ月前に自宅内で転倒し,T病院に搬送.言葉も出にくく,右頭頂葉皮質下出血も認められ当院へ転搬送.入院中,4ヵ月前にさらに左頭頂葉皮質下出血も認められ,modified Rankin Scale(mRS)5の状態となり,寝たきり全介助で維持期病棟へ転棟となり長期入院中であった.経過中,肺炎および尿路感染症を繰り返していたがここ最近は落ち着いていた.本日午後より39.2℃の発熱を認め,誤嚥性肺炎が疑われSBT/ABPCが処方となり同時に尿および痰培養がオーダーとなった.
既往歴 右頭頂葉皮質下出血(5ヵ月前),左鎖骨遠位端骨折(5ヵ月前),左足関節捻挫(5ヵ月前),左頭頂葉皮質下出血(4ヵ月前),症候性てんかん(4ヵ月前)
アレルギー歴・副作用歴 なし
飲酒歴 入院前はほとんど飲んでいない
喫煙歴 なし
検査結果
血液検査:コンサルト時
WBC 21,890/μL, Hb 9.2 g/dL, Hct 28.3%, Plt 48.3×10⁴/μL, BUN 17.6 mg/dL, Cre 0.22 mg/dL, AST 16 U/L, ALT 9 U/L, γ-GTP 40 U/L, Na 123 mEq/L, K 4.3 mEq/L, Cl 86 mEq/L, Ca 9.4 mg/dL, Alb 2.7 g/dL, BS 122 mg/dL, CRP 5.80 mg/dL.
胸部単純X線
右下肺野軽度透過性低下を認める[図1].

ここから先は

7,621字 / 6画像

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?