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抗菌薬選択チェックメイトへの道(24)

[第24回]抗菌薬投与で耐性菌登場⁉

山田和範 やまだ かずのり
中村記念病院薬剤部係長/北海道科学大学客員教授

(初出:J-IDEO Vol.5 No.3 2021年5月 刊行)

医師「1ヵ月前に左上肢にグラフトを再建してから再入院している患者さん,誤嚥性肺炎で2日前からスルバクタム/アンピシリン(SBT/ABPC)で治療していましたが,昨日,MRIで新たな脳梗塞がみつかり,内科的治療も開始となりました.肺炎については酸素化が悪く抗菌薬が効いている感じがありません.おすすめの抗菌薬はありますか?」
薬剤師「誤嚥性肺炎ですか.嚥下機能はかなり落ちていますか?」
医師「落ちていますね.2日前までは嚥下調整食ではありますが,3食全粥は食べていました.今後は胃管か胃瘻で栄養管理になりそうです」
薬剤師「そうですか.もう少し診療録の内容も確認してから,抗菌薬を提案したいと思います」
医師「わかりました.痰培養は2日前のSBT/ABPCを開始する前にも採取していますが,今日も痰培養を取りました.よかったらその情報も参考によろしく!」

 早速,当該患者が入院している病棟で診療録および,検査結果を確認しました.
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コンサルト時現症
69歳,男性.身長174 cm,体重45.7 kg
【主訴】発熱,酸素飽和度の低下
【前回入院からの病歴】40日前に自宅で覚醒が悪いことを奥様が気づき当院へ救急搬入.搬入時,意識レベルは通常と変わらないまでに回復した.意思疎通は困難であったが既往歴の脳炎後の症状で,もともと後遺しているものと考えられた.入院後,内科的治療で対応中にシャント不全を起こし,シャント造設のため一度,泌尿器科に転院となる.その後,グラフト造設され,落ち着いたため2週間前に当院へ再入院となっていた.再入院後は,微熱がみられる日もあったが比較的落ち着いており,透析は週に3回施行していた.今回の抗菌薬治療開始4日前より37℃台の発熱を認め,時折,酸素飽和度の低下を認め,2日前に39.1℃の発熱を認めたため,喀痰培養とSBT/ABPCが開始となっていた.その後,一度は解熱したが,37℃台の微熱は継続し,酸素飽和度の改善も乏しいため抗菌薬変更について薬剤師にコンサルトとなった.
【既往歴】高血圧症(18年前),慢性腎不全(18年前),糖尿病(40年前),左白内障(26年前),心筋梗塞(13年前),狭心症(12年前),脳炎(11年前),大腸癌(8年前),右血管新生緑内障,右糖尿病性網膜症(5年前),肺炎(1年前),脳梗塞(1年前,40日前),左上肢グラフト造設(1ヵ月前)
【アレルギー歴・副作用歴】なし
【飲酒歴】1日1~2合
【喫煙歴】なし
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検査結果(コンサルト時:透析前)
【血液検査】WBC 21,500/μL,Hb 8.2 g/dL,Hct 26.2%,Plt 12.4×10⁴/μL,Na 140 mEq/L,K 3.8 mEq/L,Cl 103 mEq/L,BUN 61.9 mg/dL,Cr 8.92 mg/dL,T-bil 0.2 mg/dL,AST 9 U/L,ALT 4 U/L,γGTP 11 U/L,CRP 28.73 mg/dL
【胸部単純X線】右上肺野に浸潤影(+)[図1

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