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抗菌薬相互作用整理BOX(22)

[第22回]椅子取りゲーム勝つのはどっち?~タンパク結合の置換~

山田和範 やまだ かずのり
中村記念病院薬剤部係長/北海道科学大学客員教授

(初出:J-IDEO Vol.4 No.5 2020年9月 刊行)

はじめに

 葉酸代謝阻害薬であるメトトレキサート(MTX)は,アミノプテリン誘導体の一種であり,低用量では免疫抑制効果を示し,疾患修飾抗リウマチ薬(disease—modifying antirheumatic drugs:DMARDs)として関節リウマチ(RA)の治療薬としても使用されています.がん治療では造血器腫瘍から固形がんまで幅広い適応があり,投与方法もがん種によって多岐にわたります.相互作用も多く,慎重投与薬剤も多数知られています.今回はその中でもテトラサイクリンとの併用によるタンパク結合の置換について取り上げてみたいと思います.

相互作用のメカニズム

 一般に,薬物のタンパク結合は可逆的であり,ヒトの循環血液中に入った薬物は,タンパク質と結合した「結合型」と結合していない「遊離型」に分かれて存在し,両者は薬物の種類によって濃度の違いはあるものの平衡状態にあります.
 薬物が結合するタンパク質には,アルブミンやα1-酸性糖タンパク質,リポタンパク質,免疫グロブリンなどがあり,多くはアルブミンと結合しています.
 アルブミンは脂溶性の高い酸性化合物,α1-酸性糖タンパク質は塩基性化合物に対し高い親和性を示すとされます.
 薬物の輸送は,受容体介在性エンドサイトーシスやタンパク介在性輸送など特殊な輸送系が存在しない限り,結合型は分子量が大きく,細胞膜を通過できないため,遊離型のみが生体膜を透過して,組織に移行し代謝や糸球体ろ過を受けると考えられています.このように遊離型のみが細胞内に吸収されて薬効や毒性を発現するため,薬効の本体は遊離型となります.
 ヒト血清アルブミン(HAS)は,分子量66.5 kDaでヒトの血漿中には約600μMの濃度で存在します.Sudlowらのグループが実験により,HAS分子上に2つの薬物結合サイト,いわゆるサイトⅠ,Ⅱの存在を見い出し【1~3】,その後,Takadateらによりジギトキシンやジゴキシンなどの薬物が特異的に結合する新たなサイトの存在が明らかとなり,これをサイトⅢと名づけられました【4】.さらに各サイトは2つのサブドメイン(A,B)から構成されています.
 このように現在ではHAS上には主に3つの薬物結合部位が存在することが知られています.アルブミンとは対照的に,α1-酸性糖タンパク質は塩基性化合物をリガンドとして好みますが,ワルファリンのように一部の酸性化合物もリガンドとなり得ることが明らかにされています[表1].

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