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Dr.岸田の 感染症コンサルタントの挑戦(最終回)

[最終回]新型コロナウイルス感染症時代における風邪の診かた

岸田直樹 きしだ なおき
感染症コンサルタント/北海道科学大学薬学部客員教授

(初出:J-IDEO Vol.6 No.1 2022年1月 刊行)

はじめに

新型コロナウイルス感染症の流行により,風邪診療が難しさを増したことは間違いありません.通常の風邪ウイルスによる風邪(ウイルス性上気道感染症)と新型コロナウイルス感染症を区別する難しさ,という側面だけではなく,風邪症状の患者を新型コロナウイルス感染症流行前と同じような外来診療で診ていくことの感染リスクに対する医療者側の恐怖,そして国民がこの新型コロナウイルス感染症に対して持った恐怖とともに憎しみや怒りができあがってしまったことも含め,様々な側面の困難さがこの原稿を書いている時点で発生しています(2021年11月時点).今後,新型コロナウイルス感染症はどうなっていくのか? この明確な解を提示することがとても難しい感染症であることを,みなさんに説明するのは釈迦に説法でしょう.実際私自身も,新型コロナウイルス感染症について話をする際には必ず大前提として,「コロナは生き物です.正解は時間とともに変わります」と言うようにしています.新型コロナウイルス感染症がこの地球上で認識されて2年経つ現在でも新型コロナウイルス感染症とその周辺は刻一刻と変わっており,執筆時点ではありますが,ワクチン接種により,このロードマップが大きく塗り替えられつつあります.ここでは,現時点で見えている未来を踏まえて,「新型コロナウイルス感染症時代における風邪の診かた」についてお伝えできればと思います.そして,本連載の幕を閉じたいと思います.未来に向けて.

コロナをインフルエンザのように思える未来に向けて動き出す

新型コロナウイルスは,変異株の出現によりその感染性と病原性の両軸が各年代で悪化しつづけています[図1].従来株からアルファ株の流行となった第4波ではすべての年代で酸素投与が必要となる中等症以上発生率が札幌市のデータからもわかるように高まりました.ますます侮れない感染症となっているのですが,抗体カクテル療法など医療の進歩によりその状況が変わりつつあります.第5波前期のデータでもこの時期にワクチン接種が進んできた高齢者では重症化率は下がってきていることがわかります.また,抗体カクテル療法センターが動き始めた第5波後期ではさらに重症化率は低下しています.本原稿を書いている時点では,さらに重症化率は低下しており,医療の進歩,特にワクチン接種により__“見た目の”病原性が従来株よりも大きく低下__している年代が増えてきています.つまり,このような状況から,「これから3~5年かけてコロナを風邪にする」というと言いすぎですが,「コロナをインフルエンザと思えるような未来にする」ことはそれほど不可能ではない未来が見えてきています.

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