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抗菌薬選択チェックメイトへの道(22)

[第22回]Aspiration! Aspiration! Aspiration!

山田和範 やまだ かずのり
中村記念病院薬剤部係長

(初出:J-IDEO Vol.4 No.5 2020年9月 刊行)

医師「本日,右上肢の脱力を主訴に救急搬送されて入院となった患者さん,脳膿瘍を疑っています.早速,empiricにバンコマイシン(VCM)とメロペネム(MEPM)を開始しようと思いますが,抗菌薬の選択はこれでよいですかね? あと血液透析もしているので,それぞれの用法・用量についてアドバイスもらえますか?」
薬剤師「透析患者さんの脳膿瘍ですか」
医師「はい.現段階では,① 脳膿瘍,② 脳腫瘍,③ 脳卒中の順に考えています.まずは脳膿瘍として抗菌薬を開始しようと考えています.② が強く疑われるようになった場合は手術も考えています.現在はバイタルサインや臨床症状は落ち着いていますが,急激に悪化するような場合は生命に関わると考えています」
薬剤師「そうですか.細菌性とすると侵入門戸はどちらと考えていますか?」
医師「まだはっきりしていませんが,本人からの情報によると歯槽膿漏があるそうで,そうなると歯性感染からの脳膿瘍の可能性もあり,嫌気性菌もターゲットから外せないと考えています.これから循環器内科,耳鼻科,歯科を受診予定です」
薬剤師「バイタルサインは落ちついているんですね.あと体重はどのくらいでしょうか?」
医師「体温は37.8℃で血圧は157/84 mmHg,脈拍は92 bpmとバイタルは落ち着いています.体重は73.5 kgです」
薬剤師「Empiricに開始する薬剤はMEPMとVCMでよろしいと思います.急いでいると思いますので,まずMEPMは1日1回2 g 2時間で点滴静注,VCMは初回1.5 g 1日1回2時間で点滴静注し,その後は透析後に0.5 gを1時間で点滴静注.投与開始3日目以降の透析前と投与前に確認の採血結果をもとに用量は微調整したいと思います」
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Point!
状況によっては必要最低限の情報から処方支援!(患者が待てる状況か,医師が待てる状況か空気を読む)
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Point!
腎不全があっても初回投与は分布容積を考えて十分量を!
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医師「わかりました.今日からそれでオーダーします.VCMの採血指示も入れておきますね」

 返答後,当該患者が入院している病棟で診療録および,検査結果を急いで確認しました.

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コンサルト時現症

60歳,男性 身長169 cm,体重73.5 kg.

【主訴】右半身感覚鈍麻,右不全麻痺

【現病歴】当院救急部受診1日前,朝4時30分に起床した際,左肩の違和感を自覚.様子をみていたが,翌朝の起床時には右上肢の力が入りにくく,歩行可能であるが,右下肢にも違和感が出現し12時半に当院救急部に救急搬送.頭部MRIで左頭頂葉に占拠性病変を認めたため,精査加療目的で入院となった.

【既往歴】腎不全(週3回血液透析),高血圧症(20年前),糖尿病(20年前),心筋梗塞(12年前:ステント留置術),チャーグ・ストラウス症候群(好酸球性多発血管炎性肉芽腫症,10年前:ステロイド治療),頸椎ヘルニア(10年前:ボルト留置),気管支喘息.

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