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気象予報士と見る『気象庁の人々』#05

Netflixにて配信されている『気象庁の人々:社内恋愛は予測不可能?!』。今回は第5話 局地的大雨 を見ていきたいと思います。

第5話
ユジンのウソを水に流すことができないギジュン。ハギョンの部下たちの間に不穏な空気が流れるなか、仕事に集中することができないオム・ドンハン。

Netflixより引用

第5話では、気象庁が局地的な大雨をところから始まりました。総括2課のキャラクターの個性が少しずつ見えてきた回でもあったと思います。

本筋のストーリーの感想・考察は他の方にお任せして、今回はタイトル通り局地的な大雨について語っていければと思います。

1.時間降水量とそのイメージ

局地的大雨というのは、気象庁では「急に強く降り,数十分の短時間に狭い範囲に数十mm程度の雨量をもたらす雨局地的に短時間で降る激しい豪雨のこと」と定義しています。
日本ではニュース等では「ゲリラ豪雨」や「ゲリラ雷雨」という言葉で表現されることもありますが、気象庁ではゲリラ豪雨という表現は使わず、本作のタイトル通り、「局地的大雨」という表現を使用しています。1970年代はゲリラ豪雨という表現を使用していたようですが、現在はレーダー等の観測網の発達によって、事前に気象情報を発表することができるため、予測困難な現象であることを想起させるゲリラという言葉は使用していません。

作中では、1時間雨量70~80mmの局地的な大雨が降っていました。降水量は、降った雨がどこにも流れずにたまり続けたらどのくらいの深さになるかという数字で表現します。例えば1時間雨量が80mmといわれると、空っぽだったプールが1時間で深さ8cmのところまで水がたまるくらいということになります。

実際の雨の降り方を見るとイメージがしやすいと思います。下の動画は1時間雨量50mm~90mmまでの雨の降り方を示したものです。時間80mmという雨は、とても外を出歩ける状態ではないことがわかります。

ここ数年は毎年のように豪雨による災害が発生しています。例えば2017年7月九州北部豪雨では、福岡県朝倉のアメダスは最大1時間降水量129.5mmを観測しています。上の動画は90mmまででしたがそれ以上の雨が瞬間的にでも降ったということになります。大変な災害だったということがわかります。

2.線状降水帯について

このような局地的大雨は、積乱雲によってもたらされます。#01で触れたとおり、積乱雲は大気の状態が不安定な時にできやすいです。そのような状態の時に、下層で何らかのきっかけで、上昇気流が生まれると積乱雲が発達することがあります。

積乱雲の寿命は1時間程度です。夏の夕立のように、ざっと降るイメージです。しかし気象条件によっては、この積乱雲が次々と発生して、同じ場所を通過していくことがあります。これは激しい雨が降っているエリアが帯状に広がることから「線状降水帯」と呼ばれています。線状降水帯が発生すると、積乱雲が数時間から数日間もかかり続けることになります。局地的な大雨が長時間降り続けることによって河川の氾濫や土砂災害などの被害につながります。

3.水蒸気フラックス

局地的な大雨をもたらす要因の一つに、多量な水蒸気の流入があげられます。同じ上昇気流でも水蒸気を多量に含んでいる空気が上昇するとそれだけ大雨になります。下はNHKスペシャルで取り上げられていた内容ですが、2017年7月の九州北部豪雨が起こった気象条件でのシミュレーションによると、海上の水蒸気が5%増えただけで、予測される降水量が1時間あたり最大42mmから最大127mmにまで増えたそうです。

降水量の予測には、流入する水蒸気量を高い精度で予測することが大切ということです。水蒸気の流入量を予測するのに使用されるツールの一つに、気象庁の予測モデルから出力される水蒸気フラックスというものがあります。

https://weather-models.info/latest/msm.htmlより引用

これは4月17日の9時の地上500mでの水蒸気流入量を予測した図です。緑や黄色、赤色になるほど水蒸気量が多く、矢印はその流れこむ向きを示しています。実際の天気図は下の通りです。関東の東海上に高気圧があり、高気圧の縁を回って東海地方にやや湿った空気が流入する予測であることがわかります。この日は東京でも夕方に少し雨が降りました。

気象庁ホームページより引用

一般的に海上を通ってきた風は、海からの水蒸気の供給を受けて、湿った空気となることが多いです。九州の大雨も東シナ海上を通って水蒸気をたくさん含んだ空気が流入したことが大雨の要因の一つとなっています。

4.まとめ

今回は局地的な大雨と、大雨をもたらす要因の一つである水蒸気についてみていきました。

局地的な大雨の予測はまだまだ難しい分野です。観測技術が発達したとはいえ、ピンポイントで積乱雲の発生を予測することは難しく、翌日の予報となると、例えば関東地方といった広い範囲で積乱雲への警戒を呼びかけるのが限界です。今後の予報技術の発達に期待するとともに、過去の災害を教訓に日ごろから備えておくことも重要といえると思います。

作中で「同じ80mmの雨でも地域によって受ける影響は異なる。予報はそこまで考えないといけない。」というセリフがありました。予報士試験に受かっただけの私は、日本地図がすべて収まるスケールでしか天気を正確に把握することができない、というよりそれすらままならないといった状態です。一方で、一般市民にとって必要な情報はもっともっとローカルなもののはずです。そんなあたりまえの視点に気づかされた回だったなと思います。

また、5話は総括2課のメンバーの個性が少しずつ見えてきた回でもありましたね。次回以降も楽しみにしています。

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