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たいしたことある日々のこと230628

弁護士訪問の日のことである。

その事務所の廊下はまったく電気がついていなかった。探している部屋の扉に書いてある名前すらも携帯電話の光をつけなければわからないくらいだ。わたしたちはもしかすると騙されてしまったのだろうか、そんな不安が頭をよぎる。三階のそのフロアの端から端までを探しても見当たらず、一度地上階に戻る。そして住人だろうか、あるいはその質問をよく受けるのか、学生のような若い男の子が言った。

「弁護士を探しているの?三階、エレベーターを出てすぐ右側にあるよ。」

先ほど探したんだけどなあともう一度、半信半疑ながらエスカレーターで登る。疑う時間は妙に居心地が悪い。なにもかも目に見えるものが不安要素にしか捉えられなくなる。あのすれ違った男の子は、この建物は、エレベーターは、すべてが不確かで悪い夢を見させられているかのよう。

そして三階、今度は念入りに右側、ひとつひとつの扉を確認する。

あ、見つけた。「Avocat・Monsieur Z」。インターフォンを鳴らす。部屋からぱたぱたと足音が聞こえてくる。女性ではなさそうな歩幅と力強さだ。その扉が、室内に吸い込まれるようにすうっと、開く。

「ボンジュール、マダム!予約は入れてますか?」

さわやかなアラブ系の男性が目の前に現れる。廊下や建物の雰囲気とは相反するにこやかな表情に拍子抜けをし、力が抜けるようにこちらも笑顔になる。

「はい、ムッシュ。XXXの名前で15時に予約を入れています」。
「オーケー。こちらへどうぞ。座って待っていてね、先生はすぐ来ますから」。入口の扉目の前にあるソファに軽やかに案内される。

先週金曜日の夜の話。
招待されて夜の20時頃から飲み始め、アペロという軽食で2時間、暖かい前菜のようなものが出てきたのが22時頃、そしてメインディッシュのグリルができたのは24時を回った頃だった。

そろそろ帰らなければと時間をみれば、深夜2時になっている。
いったい6時間もなにをしていたのだろう?時間は溶けてなくなっているよう。確かにお酒の力で曖昧な部分もあるが、いろんな話をした気がする。そして最終的に「あなたは本当に最高、絶対また来て、また会いたい」と同席していた女性に言われるほどの関係性をつくれた。

最高かどうかはじぶんではわからないが、コミュニケーション力のレベルは確実にあがった気がした。フランス語を話せるのは大前提。その上で人と人の付き合いがどこまでできるか、という勝負をわたしはこの南仏という土地で向き合っているように思う。

録音はしてなくても、映像化していなくても、この言葉を言われた瞬間は心に刻みこまれている。

翌日には半年ぶりくらいに会う友人と午後からランチ。13時半からノンストップで19時過ぎまで。さすがにもう当分お酒は飲まなくていいだろう、というところまできてしまった。たった48時間で何本のボトルを開けたことか、少しでも褒められる部分があるとするならばラムやウォッカ・ウィスキーなどの蒸留酒には手を出さず、ほぼワインだけで通したことだ。そもそも飲みすぎている時点で褒められたものではないか。

最近は忙しすぎて、なにもしないでのんびりする日というのが本当にない。何かしらパソコンで情報収集をして頭を動かしたりスポーツジムに行ったりして、行動をしている。一日中ソファでくつろいで映画を見るとか、食べ物もピザとかケバブとか簡単なものをUberで注文して家から一歩も出ないことをしていない。したい。しなくては。

とはいえなにもしない日を作る前に毎月1回はこんなnoteでどうでもいいことを書いちゃうものなんだな。書くことは気持ちよくてすっきりストレス発散になるし、別の意味で頭の運動なのかもしれない。

だらだらと文章を書いていると、寝起きのねこがこちらに向かって走ってきて、35度超えの南仏で暑いのにさらにわたしのお腹の上を一生懸命にふみふみとしている。それが終わったなら、腹巻きのようにのびて寝はじめる。

これをしあわせとよばずに、なんといえるのだろう。

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