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時を越えた瞬間の記録【アヌシーⅡ】

2017.6.8 France, Annecy

芝生の上にじっと座って、デスペラードというテキーラ風味のビールを飲みながら甘ったるいピスタチオのジェラートを食べ、友人と水色の湖をぼうっと眺めた。手前の道には自転車がさっと通り過ぎた。その次に散歩と途中の高齢男性がゆっくり視界にあらわれた。かとおもえば観光で浮かれている欧米人数名がにぎやかに歩いて、いなくなった後には犬を連れた散歩途中の夫婦がさわやかに横切った。

1度目のアヌシー滞在はこんなふうに時間をかけて人々を眺めるなどじゅうぶんにできなかった。タルティフレットという伝統料理のチーズのグラタンは慌てて食べたので味の記憶もうろ覚え、美しい街並みを眺めることなく駆け足で駅に向かい、一緒に行動していた友人とは余韻に浸る間もなく駅のホームでさよならをした。アヌシー、その街の名は「名残惜しさ」の象徴だった。次こそはぜったいに街を丁寧に歩き回ろう。レストランでゆっくりご飯を食べよう。美しい景色を写真に収めよう。満を持して2度目の訪問。だが、しかし。カバンから取り出したCanon G7Xの画面には、赤いバッテリーの点滅が光る。それは充電がまもなく切れることを意味する。自然の美しさを手元に残しておくために持ってきたのにも関わらず、カメラは役に立たない黒い箱になってしまった。途方にくれるその瞬間、電源は切れた。

事前準備をおこたったわたしが悪い、もちろんそれは大前提だとわかってはいるけれど、何も今このタイミングじゃなくてもいいじゃないか。

機械ができないのなら人間の力を信じよう。湖を山を空を芝を、美しい街をこの目に焼き付ける。人の姿を、その表情をしっかりと見届け、二度と忘れないように、脳内に描き切る。どうやらアヌシーには「また来なくてはいけない」と感じさせるイタズラがたくさん仕掛けられているらしい。だから今日だけではやはり満喫できていなくて、また次は、今度は、と期待させる。晴れた日だけではなく、雨の日も嵐の日も雪の日も、どんな景色も見てみたい。どんな光景にも立ち会いたい。そういう場所がこの世界に存在することの喜び、出会えたことの幸福をかみしめる場所、アヌシー。

水晶のきらめく輝きが散りばめられた、湖畔の街。

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