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買収防衛策、有事導入の効力は? 新生銀行がSBIに対抗

 新生銀行がSBIホールディングスによるTOB(株式公開買い付け)に対抗し、買収防衛策を発表しました。

 防衛策を取り入れる企業は減少が続いているが、2020年以降発動を巡って、買収者と裁判所で争う事例が増えています。

 過去の事例から防衛策が認められる条件を探ると、「株主の意思」がカギになっています。

 新生銀の防衛策は一般的にポイズンピル(毒薬条項)といわれるもので、事実上、SBI以外の既存株主に新株を渡すもので、SBIの持ち分を下げる効果があります。

 SBIは「経営陣の保身もしくは時間稼ぎにすぎず、株主の利益を著しく損なう」と、裁判所へ差し止めの仮処分申請を検討しています。

 支配権を巡る争いが起きてから対抗する「有事型」の防衛策は、2020年に東芝機械が導入したのが注目を浴び、投資会社からのTOB予告を受け、取締役会でポイズンピル型の防衛策を導入することを決め、その後、臨時株主総会で買収防衛策の導入・発動が約6割の賛成を得たことを受けて、投資会社がTOBを撤回しました。

 同じように有事での発動で、裁判所が防衛策を差し止める判断をしたのが日本アジアグループです。

 3月に投資会社からの2度目のTOB予告などを受けて、取締役会決議でポイズンピル型の防衛策の「発動」を決議しています。

 投資会社側が差し止めを求め、東京地裁・高裁が差し止めを命じた結果、投資会社は予定通りTOBを始め、共同保有分を含めて7割超の株式を取得しています。

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 多くの専門家が一致する見方は「総会決議の有無が対照的な結果につながった」ことです。

 5月には運用会社のアスリード・キャピタルから買収をしかけられた富士興産が取締役会で防衛策を導入。

 株主総会での決議を前提に、6月には取締役会で発動も決めた。

 アスリードは差し止めを申し立てたが東京地裁・高裁に退けられ、8月にTOBを撤回している。

 日邦産業とフリージア・マクロスの争いでも、日邦産業が「事前警告型」の防衛策を導入する際に株主総会決議を経ており、発動に関するフリージアの差し止めの申し立てが最終的に退けられている。

 新生銀行の防衛策も日本アジアGや富士興産と同じ「有事型」の防衛策で、発動に向けて11月に臨時株主総会を開く予定だ。

 これまでと同じように、臨時総会の決議がカギを握ることになりそうだ。

 企業法務に詳しい弁護士は「現状では、新生銀の防衛策が株主総会で否決されるシナリオも十分考えられる」と分析する。

 「SBIのプレミアムは魅力的で、一部の乱用的買収者のようなものとは違う」とした上で、「最終的には新生銀がSBI案よりも企業価値を高められるプランを株主に提示することができるかが焦点になる」と話す。

 新生銀行の大株主には約2割を持つSBIのほか、過去に公的資金を注入された経緯から預金保険機構と整理回収機構が合わせて約2割を保有するなど株主構成が一般企業と異なる。

 機構や金融庁が防衛策に対してどのような判断をするのかも焦点となる。

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 買収防衛策は00年代半ばのニッポン放送事件やブルドックソース事件を受け、事前警告型の導入が進んだ。M&A助言のレコフ(東京・千代田)によると、ピーク時の08年には他の種類の防衛策も含めて569社が導入していたが、企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)で理由の説明を求められるようになるなど、導入会社への負担も重くなってきた。総会で導入・継続に反対する機関投資家も増え、8月末時点では273社と半分に減少している。

 一方で、日本は海外などに比べ、買収者に有利だとの指摘もある。

 英国などでは対象会社の株式を30%以上買う場合にTOBを義務付けている。

 日本の金融商品取引法では取引時間での立会内取引のみなら基本的にTOB規制の対象外だ。

 足元でも東京機械製作所が株式の約4割を投資ファンドのアジアインベストメントファンドに市場内で買い進められる事態が起きている。

 裁判所は株主総会決議の有無を重視する傾向にあるが、「市場で急速に株を買い上げる買収者に対抗するための防衛策に、株主総会の決議をつねに要求するのは無理がある」(九州大学大学院の徳本穣教授)との指摘もある。

 総会は権利を行使できる株主を確定する基準日の設定に2週間必要で、その間に持ち分を高められてしまうと、実質的にあまり機能しない可能性がある。

 米国では取締役会の決議だけでポイズンピルを発動するのが広く認められている。

 国内外の防衛策に詳しいある専門家は「日本は敵対的買収がしやすい環境だ」とした上で「今後、バランス感をもって適切に規律できるように、立法論的な議論が必要ではないか」と話す。



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