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「退職金代わりに」と持ち逃げ…廃業を決めた会社の悲惨な実態

3割もの社長が「誰にも相談せずに」廃業を決断

 廃業していくオーナーたちの多くは「会社を残したい」という思いと「でも、やっぱり無理だ」という思いの狭間で揺らぎながら、悩んで廃業を決めています。
 その揺らぎの段階で、会社を残すための知恵やアドバイスを借りられると良いのですが、実際には適切なサポートや情報提供にたどりつけないオーナーが多くいます。
 中小企業白書(2014年)の「廃業支援の在り方」の項目を見ると、廃業に際して「誰にも相談しなかった」というオーナーは約3割となっています。 
 誰かに相談したという人も、相談相手は「家族・親族」が全体の約5割を占めています。士業に相談した人はわずか6.8%です。
 相談しなかった理由としては「相談しても解決できるとは思わなかった」や「相談しなくても何とかできると思った」「会社のことは誰にも相談しないと決めていた」で約7割を超えています。オーナーの思い込みや楽観視もあるにせよ、根底には中小企業支援者への信頼が薄い現状があり、孤独に廃業を選択していくオーナーが多いということです。
 廃業するためには取引先との関係の清算や事業資産の処分、従業員の雇用先の確保、事業終了までの資金繰りなど、専門家の支援やサポートが必要な場面が多くありますが、実際には満足なサポートや情報提供を受けることができていません。
 廃業の可能性を感じても何の対策も取らなかった人が4割いるのも、その結果でしょう。廃業について専門家に相談することができていたら、生き残れた会社も多かったに違いありません。
廃業は「悲惨な結末」になりやすい
 私の知り合いには、事業承継デザイナーで廃業支援のコンサルタントでもある奥村聡さんがいます。
 NHKスペシャルで「会社のおくりびと」として取り上げられたこともあるので、知っている読者もいるかもしれません。
 彼が主催する「着地戦略会」という定期的に開かれる会合で、廃業のリアルを勉強のために聞かせてもらいます。
 聞けば聞くほど「思っている以上に廃業って大変なんだな」と思わされます。
 彼によれば、廃業を決めた場合それを従業員に伝えるタイミングや伝え方が最も難しいそうです。
 長年働いてきた従業員は、たとえ債務諸表が読めなくても会社の業績が右肩下がりであることは肌感覚で分かっています。
 それでも希望を捨てずに、会社のため家族のために頑張ってくれています。そういう状態で「実は廃業します」と伝えなくてはならないわけです。 
 あまりドライに伝えると「自分たちのことを大切に思ってくれていない」「家族同然と思ってきたのに、社長は自分都合で切り捨てるのか」と反感を買いますし、ウェットに伝えすぎても悲しみが大きくなって、廃業後の転職活動に気持ちを切り替えることができなくなります。
 廃業するまでに時間が残っていたとしても伝え方を間違えると社員たちの気持ちがバラバラになっていき、職場の空気が荒んでギスギスしていきます。
 「消化試合」をこなす感覚で取引先や顧客に不誠実な対応をする者が出てきたり、ひどい場合は「退職金代わりに」と会社のお金や備品を持ち逃げするなどの犯罪行為に及ぶこともあると言います。
 そうなると、今までの良い思い出も全部壊れてしまいます。
 また、取引先の銀行にも伝えなくてはなりませんが、下手をすると当座預金の手形がいきなり止められてしまい、不渡りを出して資金繰りに窮することもあります。
 すると、ソフトランディングでゆっくりと廃業するつもりがドンと落下してしまい、望みもしない倒産に追いやられることになっていきます。
 従業員に給与や退職金が払えず、取引先にも買掛金を払えずに廃業してしまった例では、オーナー家族が地元に住めなくなり、夜逃げに近い形で出て行ったということもあったようです。
 廃業というのは簡単なように見えて、結構、悲惨な結末になりやすいのだと知りました。
 Oさんも円満な廃業は至難の業で、多方面に気を使わなくてはならないため、神経がすり減ってボロボロになるオーナーが多いと言っていました。私自身も話を聞いてゾッとし、「絶対に廃業は避けなくてはいかん」と思いました。
 もし、廃業の道しか残っていないのであればOさんのような専門家に相談し、その後の人生まで含めたアドバイスを受けるほうが賢明です。

「企業寿命を超えた会社」は「廃業しても仕方ない」?

 ここで、企業の寿命について考えてみたいと思います。
 色々な中小企業のオーナーと話していると「もうこの会社も40年になる。そろそろ寿命だ」と仰る方が時々います。
 寿命だから廃業やむなしと考えるべきではありません。

 今回ここで記事を書くにあたって、私も企業の寿命について調べてみました。
 「企業寿命30年説」というのが言われてきましたが、その端緒となったのは1983年に『日経ビジネス』が掲載されていた記事では、企業には創業期、成長期、成熟期、衰退期があり、1サイクルが大体30年とする説です。
 ソースが確認できるものとしては、『中小企業白書2011年』に帝国データバンクの資料をもとに作成された「企業の生存率」があります。これを見ると、10年後の生存率は70%、20年後は52%、28年後は45%となっています。
 事業承継の仕事をしている私の実感としても、30年後に0.021%より45%のほうが正しいように思います。
 帝国データバンクの統計に含まれない企業も含めると、本当の生存率はもう少し下がるかもしれません。
 いずれにしても30年もたない会社が過半数で、業歴30年以上は「老舗」の扱いになります。
 つまり30年以上続いてきた会社はそれだけで希少価値があり、潰してしまうのは惜しいのです。
 そもそもこれだけ人々の価値観やニーズの移り代わりの激しい時代に、30年40年と事業を続けて来られたということは、そのビジネスモデル自体に力があることの証明です。

事業承継は、会社を「蘇らせる」チャンス

 企業の寿命に関しては「社長の年齢が高くなると企業の業績が下がる」という相関関係を裏付ける東京商工リサーチの2020年のデータがあります【図表】。

【図表】社長年齢別 業績状況出典:東京商工リサーチ
 社長の年齢別に直近の企業業績を見ると「増収」は若い世代ほど割合が高く、年齢が上がるほど低くなっています。
 70代以上で増収の企業は4割もありません。
 また「赤字」や「連続赤字」は70代以上の割合が最も高くなっています。 
 このことから社長の高齢化と業績不振には関連性があると言えます。
 年齢を重ねると新しいチャレンジをすることが減り金融機関も融資をしてくれなくなるため、どうしても事業が縮小傾向になってしまうと予想されます。
 逆に言えば社長が高齢化して業績低下している会社は、若い後継者にバトンタッチすることで蘇る可能性が高いのです。
 企業の一生を創業期、成長期、成熟期、衰退期とするなら、衰退期から逆戻りして2回目の成長期や成熟期を経験するイメージです。
 あるいは、衰退期に入る前にバトンタッチができれば、業績低下を経験することなく好調が続く可能性もあります。
 私自身も今の会社を継いだ理由の一つが、70年という長い歴史を持つ会社であったことでした。
 70年前の創業者たちが目指したロマンを受け継ぎ、100年企業にしたいと思いました。
 人間にも寿命があるように、会社にも寿命があると考えるのは自然な発想ですが、人間は医学や科学の進歩によって延命を可能にしてきました。
 江戸時代の平均寿命は30歳だったものが、今は80歳を超えています。
 100歳超えのご長寿も8万6510人となりました(2021年9月1日時点)。
 企業の寿命も同じく、事業承継によって延命することは可能です。「寿命だから」を言い訳にして廃業してしまってもいいものでしょうか?

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