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日本の個人金融資産が2000兆円目前に! その陰で密かに高まる大きなリスク

はじめに

 9月17日、日本銀行が発表した「資金循環統計」によると、2021年4~6月期の個人金融資産残高が1992兆円で過去最高額を更新したことが分かりました。

 ちなみに10年前の2011年4~6月期の数字を見ると、個人金融資産残高は1491兆円でしたから、この10年間で33.6%増えたことになります。

個人金融資産が20年で3.4倍になった米国、1.4倍の日本

 内訳を見てみましょう。カッコ内の数字は全体に占める構成比です。

  現金・預金……1072兆円(53.8%)
  債務証券……27兆円(1.3%)
  投資信託……89兆円(4.5%)
  株式等……210兆円(10.5%)
  保険・年金・定型保険……538兆円(27.0%)
    ※上記のうち保険……378兆円(19.0%)
  その他……56兆円(2.8%)

 以上のようになっており、この数字からも分かるように、現金・預金の占める比率が全体の53.8%であり、相変わらず預金偏重であることが分かります。

 10年前の現金・預金残高は829兆円で、全体に占める比率が55.6%でしたから、その当時の数字に比べれば、やや現金・預金の比率は下がりましたが、それでも米国に比べれば、現金・預金で保有されている部分がはるかに高いのが現状です。

 ちなみに米国の個人金融資産(2021年3月末時点)を見ると、総額109.6兆米ドルのうち、現金・預金の構成比はわずか13.3%です。

 その反面、米国の場合は株式や投資信託の占める比率が高く、51.0%となっています。

 確かに、日本の個人金融資産は着実に増加していますが、増加のペースは比較にならないほどの差があります。

 日興アセットマネジメントが2021年6月29日に出したリポートによると、2000年末から2021年3月末までの間に日本の個人金融資産が1.4倍になったのに対し、米国のそれは3.2倍になったとのことです。

 この20年間でこれだけの差が生じた主な原因は、そもそも日米の個人金融資産に占めるリスク性商品の構成比の違いに加え、この間に米国の株価が大きく上昇したからです。

 2000年12月のS&P500は1330ポイント前後でしたが、2021年3月には3910ポイントにまで上昇しました。

 実に3倍近い値上がりです。これに対してTOPIXは2000年12月が1300ポイント弱で、2021年3月が1960ポイント前後ですから、50%程度の上昇に過ぎません。

 もちろん日本の個人金融資産に占めるリスク性資産がすべて日本株というわけではありませんが、マザーマーケットの上昇率の差が、個人金融資産の増加ペースに大きな影響を及ぼしているのは事実でしょう。

海外部門による日本国債の保有比率が徐々に上昇

 ところで、資金循環統計にはもう1つ注目すべき数字があります。

 これはこの10年の傾向と言っても良いかと思うのですが、海外部門による日本国債の保有比率が着実に高まっているのです。

 2011年4~6月期の時点でも海外部門の日本国債の保有比率は徐々に上昇傾向をたどっていましたが、それでも保有残高は67兆円で、保有者全体に占めるシェアは7.4%でした。

 これが2021年4~6月期には、保有残高が162兆円、保有者全体に占めるシェアは13.2%にまで上昇しています。

 発行された日本国債の保有者シェアは、1位が中央銀行(日本銀行)の44.1%で、次が保険・年金基金の20.5%、そして預金取扱機関(おもに銀行)の14.2%と続いていますが、現状、海外部門の保有者シェアは、預金取扱機関を追い抜きそうな勢いです。

 海外部門の日本国債保有シェアが上昇したのは、財務省が国債の安定消化を目指して保有者層の多様化を図ってきたからです。

 同省は2014年に国債政策情報室を設置し、海外における日本国債のアピールに努めてきました。

 言うまでもなく、日本は国債の発行残高が年々増加傾向にあり、それを誰に保有してもらうかが大きな問題になっています。

「日本が破綻しない理由」が実は危うくなっている?

 近年、海外部門の保有額が増加してきたのは、保有者層の多様化が着実に進んできた証拠と言えますが、反面、海外部門の保有シェアが高まることによって、国債市場が不安定化するリスクも高まってきます。

 これまでは巨額の財政赤字があっても、日本が破綻しない理由の1つとして、「日本国債の海外保有比率が少なく、自国内で消化できるから」と言われてきました。

 しかし現状を見る限り、海外部門の保有比率が年々高まっているのは、自国内消化がいずれ厳しくなることを、財務省も否定できなくなってきたからでしょう。

 だから、海外での日本国債のプロモーションを積極化させているのです。

 昨年、世界銀行のエコノミストが発表したリポートが話題になりました。 「許容できない債務」と題したもので、「国債は海外民間投資家の保有比率が20%を超えると価格が急落して金利が急上昇する懸念が高まる」という内容です。

 この点で言えば現状、日本の国債発行残高に占める海外部門の比率は13.2%なので、まだ多少の余裕があると考えられます。

 とはいえ、この10年で海外部門の日本国債の保有比率は、倍とまでは言わないまでも、それに近い水準にまで増えてきました。

 日本の財政赤字が続く限り、そして海外部門による日本国債の保有比率が高まり続ける限り、注視しておく必要があるでしょう。





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