新潟旅行(その3、北方文化博物館)

 白山神社から25分ほど歩いて新潟駅に戻る。道中、新潟市のシンボルである萬代橋も通過した。洗練と風格が同居した意匠が印象的だ。

萬代橋から望む信濃川


 新潟駅前のロータリーでタクシーに乗り、「北方文化博物館までお願いします」と告げる。観光名所と思っていたが、運転手さんには馴染みがないようで、スマートフォンで地図を見せると「阿賀野川の近くですね。ここからだと遠いですが大丈夫ですか?」と訊かれる。HPで見たところ新潟駅から車で25分程度とあったので、それほど遠くもないだろうと思い、「大丈夫です、お願いします」と伝えたところ、これがすこし失敗だった。車で25分程度であることは間違いなかったのだけれど、それは主にバイパスを通った場合の所要時間。そのため、目的地までは相当な距離があり、どんどんメーターが上がっていく。FMラジオから昭和の歌謡曲が流れる車中、にわかに降り始めた大粒の雨を眺めつつ、いくら支払う羽目になるのかと気もそぞろに25分を過ごした。結局、運賃は5,720円。割合に高い勉強代となった。
 タクシー代以上に困らされたのが天候。移動中から降っていた雨が、降りるときには一層強くなっていた。ほぼ正面につけてもらったのだけれど、30秒もしたら全身がずぶ濡れになりそうなほどの降り方で、傘を買おうとすぐ近くの商店に駆け込んだ。しかし、生憎傘の在庫が無いとのことでしばらく軒先を借りて雨宿りをしていると、見かねた店のおかみさんがご自身の傘を貸してくれた。ひとの情の温かさがありがたい。水溜まりを避けるようにすこし跳ねながら博物館に入る。

大雨の様子


 北方文化博物館では、阿賀野川の河畔にある沢海において農業で身を立てた豪農伊藤家の邸に、同家所有の美術品や家財が展示されている。越後で一番の豪農であった同家の骨太な豊かさが感じられる建物で、お座敷を備え、庭園を望む開放的な大広間棟が圧巻。大雨に降り籠められた格好となったが、華美に流れぬ実用の美といった趣の落ち着いた建物で、観光客ももう一組しかなく、ゆったりと楽しむことができた。展示物についても、当時の地主と小作との間で交わされた帳面など、史料的にも興味深いものがある。地主側であった者が語る歴史であり真偽のほどは確認できないが、展示の説明によると、伊藤家の土地では小作料に関する定めが明瞭で、地主と小作人との間で争議が起こることもなかったらしい。また、邸の外には見事な藤棚があるほか、古代蓮の池や古民家がある。蓮の葉を雨が打つ音が耳に心地よく、雨も悪い面ばかりではないなと思う。

主屋棟
お座敷と庭園
お座敷から見る庭園
古代蓮の池


 13時過ぎになるとようやく雨があがり始める。行きのことを反省して、帰りはバスを使うことにする。阿賀野川の堤防の上に停留所があり、13時50分頃にバスが到着することがわかったところで、借りた傘を返しに先ほどの商店へ行く。おかみさんとすこしお話をして、ささやかながらお礼も兼ねてお茶とお菓子を買って堤防に向かう。停留所のわきにプレハブのような待合スペースがある。雨はあがったとはいえ、空を見るとまだぐずついているようで、これならまた降り始めても安心だと思い中に入ると、饐えたようないやなにおいがして閉口した。雨がまた降るまでは外で待つことにする。堤防の上は見晴らしがよく、阿賀野川が美しく見える。
 川を眺めているうちにバスが来た。乗り込んでみると乗客がぼく以外には一人もいない。最近運賃を値上げしたと停留所の時刻表には書いてあったけれど、平日の日中とはいえ、本当にこれでやっていけるのか心配になる。新潟駅に着くまでには50分ほどかかるらしい。きれいに舗装されているとは言い難い道路の上を走る路線バスに揺られているうちに、うとうととして眠った。
(続く)


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