もしかしたら僕だって

 「代わりがいないからしょうがないよね。」
嫌そうな中に、どこか満更でもない表情で言う先輩の顔を見て僕はイラッときた。
その時気がついた。
今の僕は全く余裕がない。
いつもなら(また始まったよ)くらいで何とも思わないはずなのに、
今日は先輩のその言葉にすごくイラついた。

 僕の職場の先輩に、承認欲求の塊みたいな人がいる。
定期的に、自分がいるからこの職場は成り立っていることをアピールしたがるのだ。
今日も、今度休みが欲しいんだけど、自分がいないと仕事が回らないから無理だよねと皆んなに言い始めた。
先輩のこの話はものすごく長い。
この話は職場の全員が嫌いで、
先輩がいない時に本当にイライラするからやめて欲しいと皆んなが話しているのをよく聞いている。
皆んな大人だから、「うんうん」と聞いてあげているのだ。
いつもなら僕も、何とも思わないで聞いていられたはずだ。
でも、今日の僕は異常に余裕が無かったのだろう。

 (代わりなんているだろ)
心臓の辺りが急に熱くなる。
この前急に熱出して、暫く休んだ時も普通に仕事回ってたじゃないか
この前の週なんて、用事あるって言って頻繁に早退してましたよね?
色々言いたくなる衝動を、どうにか抑えて僕は自分の仕事を続ける。
この先輩の面倒くさいところは、
「休めないアピール」をする癖して頻繁に「休みたいアピール」もするところだ。
休みたいけど、自分がいないとこの職場はダメだから、休めない。
これを1日に少なくても3回は言っている。
(代わりなんているんだよ)
僕がそう思ってしまうのは、あなたのことがあるからだ。

 先輩の仕事なんて、やろうと思えば他の人ができる。
実際、先輩が休んだり早退した時は他の人がやっている。
僕が代わりにやることだってある。
簡単に「代わりがいない」とか言うなよ。
そう思ってしまう。

 じゃあ、「本当に代わりのいない人」ってどんな人なのか。
それは、「世界で一番好きな人」だと僕は思う。
あなたの代わりは他にいない。誰もいない。
そう、僕にとってのあなた。
つまり、誰かにとっての世界で一番好きな人。
この人だけは、絶対に他に代わりがいない。
その人でないといけない人。

 あなたにそっくりな人がいたって、
それがあなたでないなら何の意味もない。
僕が好きなのは、あなたでしかないのだから。
完璧なコピーでもダメだ。
あなたでないなら意味がない。
だからこそ、毎日こんなに悩んで苦しんで痛みに耐えているのだ。
あなたのことで死ぬほど悩んで、あなたのおかげで生きていられる。
あなたの全てが大好きで、大切で、心からこんなに幸せを願うのはあなたが初めてだ。
生まれてきてくれて、本当にありがとう。

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