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DNRのこと

医療の世界で、蘇生をしないことをDNR(do not resuscitate)という。
日本では患者のカルテなどに赤字で「DNR」と書いてある。
そういう患者さんは、急変して心肺停止しても電気ショックやCPR(cardiopulmonary resuscitation)などの蘇生処置をしないことになっている。

看護師の間では、「あの人はDNRだから」とか「あの患者さんはまだDNRの同意を取っていない」などと言う。

昨日の看護師ミーティングで初めてクライアントのDNRの話が出た。
クライアントは難治性のてんかん症候群で、重度発達障害もあり本人の意思表示は困難だ。発作は毎日のようにあり、てんかん重積で心肺停止に陥る可能性があるのだ。
今までは、お母さんが常にそばにいるから急変時も看護師が判断することはなかったが、今後はお母さんが旅行などで不在にする可能性がでてきた。
その時、クライアントが心肺停止(CPA) した時、CPRをしてもいいのか?ということは以前から疑問だった。

というのは、胸骨圧迫(chest compression)すると肋骨が折れる可能性があるのだ。また、蘇生したとしても人工呼吸器に繋がれたままになってしまったり心拍が戻っても、意識が戻らない可能性もある。なので、蘇生措置を行っても意識が戻らない可能性がある患者はDNRを希望する事が多い。ところが、クライアントの両親は今までDNRに関して意思決定をする機会がなかったそうだ。

この問題は非常に難しい。日本では、どんなに高齢でも最後まで諦めないで最高の医療を提供するのが当たり前だ。でも、肺炎を繰り返してだんだん弱っていき「老衰」の域に至った患者を点滴や人工呼吸器で生きながらえさせるのはさすがにおかしいのではないか?と思う人が増えて、DNRを選択することが増えてきた。ただ、DNRの話を切り出すのはタイミングが難しくて救急車で運ばれてきた患者やその家族に、
「心肺停止した際、蘇生を希望しますか?」
と聞くのは心苦しい。
がん患者さんでも、急変時の希望を表明していない方は結構多くて、戻ってこないのを知りながらCPRをしなければならなかったことが時々ある。

カナダは、安楽死が合法だし、日本のように最後の最後まで「手厚い医療」が受けられる医療システムがないので、自然死への受容は高いように思われる。実際、がんの診断を受けたおばあさまは、がんの切除が可能との主治医の診断があったもののがん専門医の受診が今月末。それから治療となると、一体いつからになるのか・・・転移してしまって治療不可能ということになりかねない。本人も、高齢だから治療しなくてもいいんだということも言っているしクライアントよりもこっちのDNRのほうが先なんじゃないのか?などと思ってしまう。

今回のミーティングで、他の看護師と意見交換した中で、カナダ人看護師はCPRに関してはあまり前向きではない様子だった。おかあさんは、まだ決められないと。そりゃそうだろう。今まで何年も救命に奔走してきたのに、今度は心肺停止したら蘇生するかどうかを決めなければならない。一人の看護師がいいことを言った。

「DNRの意思決定をするのに医師が助言してくれる」

DNRには段階があり、この場合は蘇生する、この場合は蘇生しないなどと患者の状態に応じて選択することができるらしい。確かに、急変時蘇生しませんといっても、胸骨圧迫をしないまでも、酸素をつけるかどうか、点滴をするかどうかなど介入も色々ある。
「DNRの撤回もできる」とも言う。

本当に簡単なことではない。
じっくり時間をかけて、考えてお父さんとも十分に話し合わなければならない。
進行性の病気や老衰のように徐々に弱っていくのではなく、昨日まで笑顔だったクライアントが急変した時、DNRと割り切れるのか。
日本人の私は、割り切れないな。
自分が親だったら、人工呼吸器つけるまでやってもらうかもしれん。

ただ、お母さんはAEDの導入に前向きだったので、蘇生に希望を持っている感覚だ。でも、AEDがあってもCPRを行う必要があることはお伝えした。電気ショックを与えても心拍が戻らないこともあるのだ。

カナダの在宅介護において、自分のシフトの時クライアントが死亡してしまうことがありうるという。心肺停止してても救急車が病院に連れて行ってくれる日本とは体制が違うのか。

とりあえず、急変時の対応についてはまだ話し合いが始まったばかりだ。

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