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今年は沖縄本土復帰50周年にあたり、様々な催しや特別番組の企画も盛り沢山な様相を呈しています。
先日、NHKで放映された特別ドラマ『ふたりのウルトラマン』はその一環での企画に該当します。

ドラマを鑑賞し私自身の深い思い出が呼び起こされた、当時の出来事が反芻してまいりました。固有名詞に配慮しつつ、お伝えしたいと思います。

ドラマ『ふたりのウルトラマン』は脚本家・上原正三氏の目を通して、同じ沖縄出身の脚本家であり日本の特撮史上最大のヒーロー“ウルトラマン”の生みの親の一人とも言える金城哲夫氏を描いた、当時の時代背景、環境や制作者としての苦悩を綴った青春ストーリーです。
このストーリーの軸、元となる書籍があります。

『金城哲夫 ウルトラマン島唄』(筑摩書房刊)
この書籍は上原さんが金城哲夫さんについての想いを余すところ無く書き綴った、ルポルタージュなドキュメント小説です。

2000年の頃だったと思います。
当時、私は大手映画製作配給会社のギャガ・コミュニケーションズに在籍していました。私のいたセクションは単館系ラインの邦画製作部門で、絶えず映画化への企画の持込、その相談がありました。

ある日、上司から私に指示があります。「オマエもよく知っている上原正三さんからご自身が書かれた書籍の映画化の相談が来ているんだけど、実は監督と主演はSさんでいきたいという上原さんからの意向もあるんだけど、よく話しを聞いてきてくれないか」

指示を受けその後、打ち合わせをセッティングし、上原さんと対座しお話しをお伺いしました。今でも覚えている目の前に座る上原さんからは切実という印象が凄く残っています。
私にご著書を手渡され、「金城哲夫という人物を忘れてはいけない…この映画化は絶対やらなければ、映画化できるのであれば、それが何よりの優先です」
瞬きもせず私に訴えかけられた上原さんの表情は今も目に焼き付いています。

お見送りした上原さんの後姿を拝見しながら、ウルトラシリーズ、イナズマン、がんばれロボコン!、ゴレンジャー等とこの方の才能に私の少年時代は骨の髄まで浸透していた事を思い返しながら、感慨を覚えました。

上司に打ち合わせ内容を報告し、今後を協議しました。
「Sさんだと出資が難しいから、今のウチの形を理解してもらって成立させていこう」
当時、ギャガの邦画セクションでは音楽映画というジャンルを確立すべくラインナップを強化していました。人気ミュージシャンもしくはバンドを主演に劇伴、音楽担当も併せ、オリジナルストーリーにPV出身の演出家もしくは新人監督養成も含めた映画進出を促すといった、若い層への訴求性の高い作品づくりがトレンドでした。
そこで上司と相談して有力リストに挙がったのが、沖縄出身の人気バンド、そのリーダーをキャスティングし、監督を沖縄に造詣が深く実績もある方でいくという方針が固まりました。
その監督こそ、このたびの『ふたりのウルトラマン』を演出した中江裕司さんだったのです。中江さんは沖縄を舞台にした映画『ナビィの恋』を監督し大ヒットに導き、その力量は業界に広がり人気監督として、当時スタッフィングに関して時間を割いてもらうのは困難さが想像はできたのですが、上司と一緒に中江さんへの折衝を試み、お話しをさせていただいたのです。中江さんもご興味を示されたのですが、当時の状況的には物理的な難しさがあったと思われます。
ある意味、それから約20年の歳月が経過し、こうして中江さん監督でNHKで実現できたのは、不思議な巡り合わせが見えない糸を作り出していたのだと思わずにはおれません。

話しを少し戻しまして結局、音楽映画としての成立は、先程の主演候補の方のマネージャーの方も熱心にご協力をしていただいのですが、多忙な音楽活動の合間にというマネージメントの難しさから膠着してしまい、その後、ご紹介を通して別の主演と監督の候補の方へのコンタクトも進めていったものの此方側の目論みはなかなか上手くいかなくなり、お預かりした企画を上原さんにお返しする流れとなったのです。

上原正三さんは2020年に逝去され、今回のNHKのドラマ企画は上原さんの遺志を継ぐ形で実現したものであると私には映ります。本当にNHKの製作スタッフに私は心から敬意を表したい気持ちで一杯です。
何らかの機会で未見の方にも観てもらえるタイミングが訪れることを期待しています。

そして、初代ウルトラマンの影響下でその道を志した稀代の映像作家である庵野秀明監督と樋口真嗣監督が2022年に上原さんや金城さんへのリスペクトを込めたであろう『シン・ウルトラマン』を制作しました。

私自身、社会人スタートが金城さん、上原さんが尽力した円谷プロダクションであった事…今は感謝でしかありません。

創業5周年時にお世話になっている
デザイナーの方からお贈りいただいた
ウルトラマンの精巧なソフビ人形。
大事に事務所に飾らせていただいています。



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