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2024年は選挙YEAR

1.はじめに

今年も早いもので、11月中旬だ。市場関係者にとっては、米国のサンクスギビングデー近辺から、「今年も終りだなー」と感じることだろう。私も、例年この時期になると、今年の振り返りと来年の相場展望について、色々と整理作業を行っている。今回は、まずその一部を紹介したい。

2.一行まとめ

私は、毎年の市場のまとめをキーワードで一行でまとめることをお勧めしている。人間というのは、極めて忘れやすいのだが、市場のプレイヤーにとって、過去の記憶はかなり大事である。キーワードで一行で頭に入れておくことで、「あの年は市場にとって、こういう1年だったなー」と簡単に思い出すことができるようになる。そういう意味でお勧めである。更に細かく、この作業を毎月やっておくことも楽しいし、マクロ的な観点だけでなく、個別の株として、その年の記憶に残る銘柄をインプットすることも有意義だ。とりあえず今回は、ここ数年のマクロ的なキーワードを振り返ってみよう。以下の表は、私の切り口である。

2016年は「ポピュリズム元年」である。もちろん、ポピュリズムなんて昔から存在する。しかし、トランプ大統領候補が大統領選に勝利したこと、そして英国が妙な熱狂に促されて、国民投票でEU離脱を決めたことは、かなり衝撃的であり、私はこの年を「ポピュリズム元年」と位置付けた。

2017年は、「世界同時景気拡大」である。この年は、市場においては非常に良い年であり、世界中の株価が史上最高値を更新した。新聞では、「ゴルディロクス」という言葉がよく見られた。世界120ヵ国の成長率が前年を上回り、過去100年で5回もデフォルトした経験のあるアルゼンチンが100年債を発行し、投資家から3.5倍の応札が殺到するという異常な楽観ムードであった。

2018年は「米国一強」である。裏を返せば、前年の世界同時景気拡大から、落ちこぼれが出てきた年だ。その落ちこぼれの筆頭が欧州であった。また、この年の6月より本格的に米中が貿易戦争を開始し、これまでの口頭による批判ではなく、実際に貿易取引に関税を適用し始めた。米国の対中関税に対して、中国もしっかりと報復関税を展開した。こんな中でも米国経済だけは非常に堅調で、2011年以来の3.7%の高成長を記録したほか、1年間に非農業部門の雇用者数が264万人も増加した。

2019年は「強者不在」である。イエレンFRB議長は2015年に1回の利上げ、2016年も1回の利上げと慎重に金融引き締めを開始した後、2017年は3回、そして2018年は4回と利上げペースを加速させ、FF金利を2.5%まで引き上げた。しかし、2019年は3回の利下げに転じる状況となった。前年の「米国一強」の状態から、米国も滑り落ち、「強者不在」の状況になったのだ。2019年末は中東において地政学リスクが高まり、202年初頭には米国とイランが一触即発の状況に発展していった。

2020年は、「パンデミック」だ。年初には米国がイランのソレイマニー司令官を暗殺したことで、一触即発の危機になったが、これはなんとか収まった。しかし、コロナウイルスが急速に世界に蔓延し、世界は久しぶりの「パンデミック」の恐怖に大揺れとなった。人の移動を規制する「ロックダウン」により、各国の経済は未曾有の落ち込みとなり、失業率は跳ね上がった。その危機的な状況に対応するため、各国の中央銀行は超金融緩和政策、各国の政府は超財政バラマキ政策で対応した。「火事の最中に、放出する水の量は気にするな」が合言葉となり、未曾有の政策対応が実施された1年だ。

(非農業部門雇用者数)
(コロナショック時の失業率)
(コロナショック時のVIX指数)
(FRBのバランスシート残高)

2021年は「偽りの平和」である。コロナウイルスの正体が分かり、ワクチン等も整備される中で、人々は徐々にコロナ慣れし、ロックダウンは「やり過ぎ」だという国が増加し、経済活動が再開していく。こうした中で、超金融緩和と巨額の財政出動、リモートワークなどのコロナ禍での新たな働き方の普及等により、ハイテク株が急激な上昇となる。まさにハイテク株祭りだ。この年の主役銘柄はテスラだろう。今の分割後の価格換算で400ドルを超えた。またコロナ禍における半導体不足等への反省から、重要物資について各国が産業保護政策に動き出した1年でもある。経済安全保障という言葉がキーワードになっていく。コロナも乗り切り、株価は急上昇し、平和的なお祭りムードが漂っていたわけだが、それは「偽りの平和」であった。それに気が付くのは22年である。

(テスラ株価)

2022年は、「秩序崩壊」だ。2020年のコロナショックと、2022年のインフレ急騰は、市場においても歴史的なイベントになった。22年は何と言っても、インフレの急激な進行である。2010年代に低インフレで悩んできた米国で、9%を超えるインフレが実現することを予想した人は皆無であったことだろう。「インフレは死んだ」という固定観念が崩壊した1年であった。このインフレに対抗するためのFRBの金融引き締めも、歴史に残る利上げとなった。1回あたり75bpの利上げを4会合連続で行うというものだ。これはかなり衝撃だった。ロシアがウクライナに侵攻して、「ウクライナ戦争」が開始されたことも、戦後の国際秩序を大きく揺さぶった。「力による領土変更がない世界」という秩序は、2014年のクリミア侵攻で亀裂が入り、ウクライナ戦争で崩壊したのだ。米国では最高裁が人工中絶を容認した歴史的な「ロー対ウエイド判決」を覆した。50年間に渡り、米国で認められてきた社会基盤が揺らぎ、大きなハレーションを引き起こした。これも秩序崩壊である。

(米国のインフレ率)
(2022年の歴史的な利上げ)

2023年は「マグニフィセントセブン」である。ChatGPTに代表されるようなAIが一気に社会に普及し、我々の社会が凄いスピードで変化し始めている。このAIの急速な発展により、米国株式市場を牽引する顔ぶれも変化してあ。それがマグニフィセントセブンである。特に主役銘柄はエヌビディアやマイクロソフトになった。この流れは、2030年に向けて、更に大きなうねりとなっていくであろう。

(エヌビディア株価)

では、2024年のキーワードは何か?それは「選挙、政治への不信」であろう。24年は政治的に非常に重要な1年となる。
24年1月は、いきなり「台湾総統選挙」だ。
台湾総統選挙については、与党の民進党が勝利した場合、台湾史上で初の3期連続の与党継続となる。これまでの台湾は、2期8年毎に政権交代を繰り返してきた。これが崩れ、与党の民進党が3期目の政権運営を行うとなれば、中国の台湾統一戦略に対して、市場は警戒を強めざるを得なくなる。今週は、米中首脳会談が開催されたが、習近平は米国が台湾問題に口を出さないように牽制し、台湾統一は必ず実現するとの決意を表明している。
そして、この同日に台湾の野党である国民党と民衆党が統一候補で共闘すると発表した。これまで台湾総統選挙では、民進党の頼清徳候補が安定したリードを維持してきた。約30%~35%の支持率である。これに対して、国民党の侯氏が20%超、民衆党の柯文哲候補が20%超という状況で、野党が分裂して選挙に臨んだ場合には、頼清徳氏が有利であった。ここに来て、野党が統一候補の擁立で動いたことで、台湾総統選挙は政権交代が起こる可能性が出てきた。この野党共闘でどちらが総統候補になるのかはまだ決まっていないが、それなりに強いカードになるだろう。国民党の侯氏は、1980年代の台湾の治安が最も荒れていた時期に、警察官として台湾マフィアの幹部を次々に逮捕するなどして、優秀な刑事として頭角を現し、8万人を束ねる警察機関のトップとして、台湾の治安を守ってきた。しかし、外交面では弱さがあると指摘されてきた。一方で、民衆党を立ち上げた台北市長の柯文哲氏は、もともとは医者でありながら、独特のキャラで若者を中心に人気が高く、何よりも政治センスや外交センスが光ると言われてきた。今年も既に米国を訪問し、バイデン政権の主要幹部にしっかりとした根回しをしてきたと言われている。つまり、この共闘はお互いの弱い部分を補うので、それなりに強力なタッグになるかもしれない。
市場としては、国民党と民衆党が勝利した場合には、これまでの台湾の2期で政権が交代してきた状況が繰り返されることになるため、今まで通りであり、安心材料となるだろう。また、中国も武力的な圧力を引っ込め、宥和的かつ平和的に4年間を使いながら、台湾の世論やムードを中国寄りに誘導し、住民投票での中台統一を実現する戦略を取れることになる。市場にとっては、台湾有事リスクがひとまず後退することから、ポジティブだろう。東アジアの地政学リスクの後退から、米国の投資家のTSMC投資なども再開する可能性がある。

2月はインドネシア選挙があり、米国大統領選関連では、バイデン大統領がサウスカロライナ州から予備選挙をスタートする。黒人票に強いとされてきたバイデン大統領だが、その状況が近年変化しているとも指摘されており、注目だ。

3月はスーパーチューズデーがある。ロシアの大統領選挙も予定されている。この3月にはトランプ前大統領の「1/6の議事堂事件」の初公判も注目だ。
その後も、韓国総選挙、欧州議会選挙、イギリス総選挙、東京都知事選、自民党総裁選、そして米国大統領選挙と続くのだ。来年は、このブログでも、米国大統領選挙について取り上げる機会が増えるだろう。西側の世界の政治リーダーは低い支持率と不安定な政権基盤に苦しんでいる。24年は政治にとつて非常に重要な1年となるため、丁寧に取り上げていくつもりだ。

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