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来週の相場見通し(10/30~11/3)①

1.はじめに

市場の基本的なテーマに変化はない。「中東情勢」、「米金利動向」、「日米決算発表」、「日銀の金融政策等」であろう。中東情勢は、イスラエルが限定的にガザへの地上軍投入を開始している。米軍は、この地域にミサイル防衛システムの導入を急いでいる。米国防総省によれば、終末高高度防衛ミサイル(THAAD)をサウジアラビアに送り、パトリオット地対空ミサイルシステムをクウェート、ヨルダン、イラク、サウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦に送っているとのことだ。明らかにイスラエルとガザの戦争の範囲を超えている。戦線拡大の可能性が相応に高いのだろう。
米金利については、ビル・アックマンら著名投資家が米国債ショートポジションを手仕舞いしているとの報道で、米金利が大きく低下する局面はあったものの、依然として高い水準で張り付いている。米国企業の決算発表は金融から、ビッグテック、半導体関連大手などに拡大してきた。全体として見れば、8割弱の企業が予想を上回る決算であり、「いつも通りの米国決算の光景」だ。しかし、株式市場では「バリュエーション調整」の動きが継続しており、決算の良いニュースよりも、悪いニュースを探して、売られているようなムードである。為替市場ではドル円相場が一時150円を突破した。同時に円金利市場では10年金利が0.9%目前まで上昇し、値動きだけ見ると、株安、債券安、円安のミニトリプル安の様相を呈している。来週の日銀金融政策決定会合への注目も高い。
政治面では、米国では下院議長が決まったほか、民主党からバイデン大統領に挑戦する候補者が登場した。日本では、岸田首相が国民への還元のための減税政策を打ち出し、色々と物議を醸している。
今週は簡易版となるが、市場のポイントを整理しておきたい。2回に分けてお届けする。

2.米国の状況

① 経済指標と市場環境

【住宅関連】
いくつか、気になる経済指標を紹介しておきたい。今週は、新築住宅販売の市場予想を上回る伸びが話題になった。下のチャートは、新築住宅販売件数の推移だ。これは、水準と方向性の両方から確認したい指標だ。まず方向性としては、右肩上がりに増えている。これは、中古住宅の在庫がないことや、業者が価格の引き下げやインセンティブを導入して、少しでも購入しやすくしているためである。また、水準としては増加しているといっても、コロナ前の水準程度である。

(新築住宅販売件数)

新築住宅の販売価格の中央値は低下している。大手業者の値引き競争である。

(新築住宅販売価格中央値)

それもこれも、米国住宅市場の9割を占めると言われてきた中古住宅市場において歴史的な在庫不足が発生しているからだ。下のチャートは、中古住宅市場販売件数と、新築住宅販売件数の差の推移である。コロナ前は5百万件くらいの差があったのが、350万件を割っている。150万件も差が縮小しているのだ。すなわち、新築住宅販売件数の増加は、米国経済の強さを示しているというよりは、米国住宅市場の歪を示していると見るべきだろう。

【個人消費関連】
米国の貯蓄率がまた低下した。ついに3.4%である。フローにおいて、米国人のお財布状況は厳しくなってきている。

(貯蓄率)

四半期ベースで公表される金融債務比率は、6月末時点では依然として低い状況であり、米国では過剰債務がリーマンショック時のような不健全な状況ではないことを示している。9月末の状況がどう変化しているかは注目だ。

(金融債務比率)

【米国金利動向】
米国債市場では、相変わらずタームプレミアムや需給動向が注目されている。今週は5年債の入札は冴えなかったが、7年債の入札はまずまずだった。

(5年債入札 最終投資家需要)
(7年債入札 最終投資家需要)

下のチャートは、米国10年金利と2年金利のスプレッドだが、今週は安定していた。米国金利の動向は、依然として不安定であるものの、10年金利と2年金利が順イールド化せずに、小幅の逆イールドで安定してきている点は、注目しておきたい。タームプレミアムの拡大が止まっているということでもある。

(10年金利と2年金利のスプレッド)

来週は、11月1日に四半期定例入札の発表がある。市場では、米国債市場の不安定さを理由に、入札増額が見送られるとの期待もあるようだが、それは難しいだろう。FOMCにおいては、また別途取り上げる。

【米国株動向】
米国企業決算が本格化している。これまでのところ、8割弱の企業が予想を上回る決算を発表している。いつも通りだ。
ちなみに、下のグラフは各四半期のEPS見通しについて、7月、10月の決算前と足元までの変化を追ったものだ。今期については、特にテクノロジー関連のEPSが決算前に比べて、かなり上昇してきている。また、先行きについても、これまでのところ、大きな変化はない。ガイダンスが弱い企業も散見されるため、決算後にEPSの下方修正は想定されるものの、全体としては、それほど懸念するような決算ではないようだ。

しかし、米国株は軟調だ。米金利の上昇に耐えていた米国株に「バリュエーション調整」が入る展開となっている。米国株は巨大な7社を中心とするビッグテックに支えられてきたこともあり、こうした企業が調整に入ると、全体的な弱さが際立つ展開となる。
私は、米国のビッグテックに強気な立場だ。今回の決算でも、それぞれに課題はあっても、ビジネスモデルとしての強さに加えて、それを収益化していくことの巧みさは光っており、下落する局面はチャンスと捉えている。
米国株で心配なのは、金融株である。KBW銀行指数は、3月の金融不安時の安値を更新してきている。(下図)

(KBW銀行指数)

足元では金融不安は再燃していないが、この先は大丈夫だろうか?個別の銀行では、かなり大きな下落で時価総額が急減している先がたくさんある。

(ファースト・ホライゾン株価)
(ファースト・ホライゾン時価総額)
(シチズンズ・フィナンシャル株価)
(シチズンズ・フィナンシャル時価総額)

こうした個別行の状況を見ていると、米国金融業界の再編は避けられないように思われる。もちろん、それは悪いことではない。しかし、市場のその時の状況によっては、個別行の破綻=金融再編=ポジティブと捉えるのか、個別行の破綻=金融不安再燃=ネガティブと捉えるのかは分からない。3月の金融不安は、まさに紙一重だった。あの時に、更に10行も破綻していたら、米国金融システムは大きなショックに晒されていた可能性がある。BTFPはFRBが導入した流動性プログラムであるが、万能ではない。米国債による担保を必要とするからだ。しかも、このプログラムは来年春には終了する予定になっている。(延期されると思うが)米国経済は、依然として底堅い。足元の株価下落も、単なるバリュエーション調整であり、むしろ米国株はこうした調整で健全化するため、ネガティブな動きではない。アキレス腱は米国の金融不安の再燃だと考えている。FRBがHigher for Longerに拘り続けると、その不安の顕在化リスクが高まる。FRBがいつ「利下げ」というワードを使い始めるか、また「QT停止議論」がどのように本格化するかは、また別途取り上げたい。

【米国政治動向)
米国の下院議長が決まった。51歳のマイク・ジョンソン氏である。下院議長は米国大統領継承順位が、副大統領に次いで第二位の超重要職である。バイデン大統領と、カマラ・ハリス副大統領に万が一のことがあれば、このマイク・ジョンソン氏が米国大統領代行になるのである。その職に、これまで下院議員の各種委員会の委員長も1度も務めたことのないジョンソン氏が就くことになった。委員長としての経験はないが、昨年は共和党会議の副議長に選ばれている。ジョンソン氏は、ルイジアナ州立大学で法律の学位を取得し、主に宗教保守にとって重要な問題を扱う保守的な法律団体のために20年近く勤務してきた。ジョンソン氏が下院議員になったのは、2016年であり、現在は4期目だ。党内ではそれなりに人望もあるようだ。
政策については、宗教右派であり、伝統的な保守の立場だ。米国では、メイン州ルイストンでの銃乱射事件を受け、18人が死亡した。バイデン氏や民主党は、銃の規制強化の必要性を強調しているが、ジョンソン氏は、「危機のさなかに 銃規制を議論するのは不適切だ」と主張し、「武器ではなく、使う人間の問題である」という全米ライフル協会と同じロジックを展開している。まら、予算については、イスラエルの安全保障のために145億ドルの単独パッケージを提出すると述べている。これは、バイデン大統領が望んでいるウクライナ支援とイスラエル支援を別々にして、イスラエルは支援するが、ウクライナ支援は慎重に対応するということだ。さて、これからどのように共和党を牽引していくのか。その手腕によっては、28年の大統領候補の1人になるだろう。注目していきたい。

民主党からは、ディーン・フィリップス下院議員が、バイデン大統領に挑戦すべく立候補をした。フィリップス氏は、54歳でユダヤ人だ。ブラウン大学を卒業したフィリップスは、家業の酒造業で働き、タレンティ・ジェラートの会長兼共同経営者を務め、ツインシティでいくつかの地元コーヒーショップを開いた後、2018年にミネアポリス郊外の激戦区から下院議員選挙に出馬した。
彼はエリック・ポールセン下院議員を破り、60年近く続いた第3選挙区の共和党代表に終止符を打った。フィリップス氏が、大統領選に残れる可能性はゼロだが、民主党のフィリップス氏が「バイデン大統領の年齢問題」への懸念を真っ向から掲げて、立候補した点は注目したい。民主党議員が少なからず、同じ懸念を抱いているのは間違いないだろう。

明日は、日銀金融政策決定会合、円金利、岸田政権の減税政策、為替相場について取り上げるつもりだ。

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