岡田将生研究㉓2023年総括:原点回帰と新たなステージへ

 2023年の岡田将生は、映画「1秒先の彼」で本格スクリーンデビュー作「天然コケッコー」(2007年公開)以来の山下敦弘監督とのタッグで注目を集め、俳優を休もうかと悩んだ時期に出会った代表作、ドラマ「ゆとりですがなにか」(2016年、2017年SP)の続編映画「ゆとりですがなにかインターナショナル」公開で話題となった。どちらも岡田の魅力を知り尽くす人気脚本家宮藤官九郎の作品であり、否応なくデビューからこれまで岡田が歩んできた道のりを振り返らざるを得ず、その成長ぶりに感嘆し、どこか懐かしい気持ちもこみ上げる。まさに温故知新の年であった。一方で、年明け早々にMARNIのファッションショーに参加してファンをざわつかせ、10月には突然インスタグラムを開始し、世間をあっと驚かせた。地上波ドラマの出演が0本というのは、2006年のデビュー以来実に初めての事。岡田の周辺が一気に様変わりした年でもあった。

 2023年3月、岡田は香港の華やかな場に姿を現した。ドライブ・マイ・カーでの演技が評価され、アジアフィルムアワードの助演男優賞にノミネート。惜しくも受賞は逃したものの、西島秀俊とともにプレゼンターとして英語でスピーチを披露した。同時に中国の人気小説(「悪童たち」)を原作とする、大ヒットドラマ(ドラマタイトルは「バッド・キッズ」)のリメイク映画「ゴールド・ボーイ」に主演、日中同時公開作として制作されることが香港で発表された。(この時点で日本では未発表)また「1秒先の彼」が、6月に開催された台北映画祭のガラ・プレゼンテーション部門に出品され、山下監督、宮藤官九郎氏とともに参加し、現地で記者会見、舞台挨拶を行い、確実に活躍の場が日本国外へも広がっていることを印象付けた。尚11月には、台湾の雑誌Taikaer Magazineに中国語と英語のインタビュー記事が、ファッショナブルな写真とともに掲載された。

 「ゆとりですがなにかインターナショナル」は、国内ドラマの続編映画だが、奇しくもタイトルに”インターナショナル”と入っているのは、時代を反映させたものであると同時に岡田をはじめとするキャストの国際的活躍を暗示しているようにも思える。言い換えれば、岡田、安藤サクラ、柳楽優弥などのキャスト陣が、しっかりと時代の潮流に乗れているという事でもある。この映画も国内だけにとどまらず、台湾での上映が決定している。

 映画以外での目立った活動と言えば、先述のモデル仕事だ。年始のMARNI以降も、7月にはLOEWEのバッグを身に着けたX投稿がバズり、その後もPearly Gates、HUBLOT、再びMARNI、 LOEWEなどのモデルとして、雑誌やwebサイト、メディアのインスタグラムなどに登場した。「写真を撮られるのが好きじゃないんですよ」(2011年、「未来の破片」より)と語っていたのが最近では「ファッションの仕事が好き」と言うまでになった。インスタグラムの開設は「海外の映画祭で、何でインスタやってないんだ?連絡したくてもできない、と言われたから」とインタビュー(anan)で答えているが、こうしたモデル仕事が増えたこととも無関係ではないだろう。インスタグラムでは、俳優仲間からの愛溢れるコメントが度々寄せられ、岡田自身も茶目っ気のある写真や動画でファンを楽しませてくれている。

 2023年のドラマ出演は、古典落語を題材にオムニバス形式でドラマ化したWOWOWの「にんげんこわい2 鰍沢」の1本だけであった。「鰍沢」は、2018年の主演ドラマ「昭和元禄落語心中」の劇中で名人八雲として披露した演目だけに、こちらも懐古的な作品であった。落語心中の八雲といえば、ゆとりシリーズともドライブ・マイ・カーの悪役とも対極にある、岡田将生の当たり役。しっとりとした和の雰囲気に色気と神経質さが交錯し、得も言われぬ存在感を放つ名演であった。「鰍沢」は、短編ながら落語心中以来の和の雰囲気、画面から放たれる色気と妖しさに魅了され圧倒される佳作。かつ落語心中で共演し、岡田の落語の師匠でもある柳家 喬太郎氏がナビゲーターを務めているこの作品もまた、郷愁を誘う過去を巡る作品であった。1年でたった1本、わずか30分足らずの主演ドラマであるにも関わらず、ファンを歓喜させるには充分であった。

 16年ぶりに岡田と仕事をした山下監督によると「天然コケッコーの頃は、役者デビューして日も浅く、イケメン過ぎて行く末を勝手に心配していましたがそんなのは杞憂で、いい監督や脚本家たちと出会ってキャリアを重ねてますよね」「今の彼は多彩な引き出しがあって頼もしかったです」(キネマ旬報)。「ゆとりですがなにか」シリーズの水田伸生監督いわく「人の気持ちを惹きつける”ど真ん中に立つ男”としてどんどん成長してるし、自分の事よりも人の事を考える男なのに、結果、それが全部自分に戻って来る感じ。それが岡田くん」(+act)。

 2012年「今は成長段階だし、いろんな経験させてもらって培ってきたものが、たぶん30代ぐらいから上手く出せるのかなぁと思うし、10年後が楽しみなんですよ」(未来への破片)と語っていた岡田が、10年後に予言通りの活躍を見せ、次は「ドラマでも映画でも違う環境で仕事がしたいので、理想は40歳までに、できれば海外の作品に出たい。今は配信のおかげでそういうことが可能になってきたので、飛び出して挑戦したくなります」(anan)と未来を見つめ、自身の設計図を描く。

 2024年春には、製作陣の半分が中国サイドの主演映画「ゴールド・ボーイ」(金子修介監督)が公開。夏には、絶大な人気を誇る塚原あゆ子監督と野木亜希子脚本による人気ドラマ「アンナチュラル」×「MIU404」とのシェアード・ユニバース・ムービー「ラストマイル」への出演が発表されている。さらに主演を務めるAmazonプライムの連続ドラマ「1122いいふうふ」(今泉力哉監督)もまた夏に全世界に向けて配信される。どの作品も岡田が初めて仕事をともにする監督のもとで制作された作品だ。2024年は、新たなステージへ向けて、さらなる飛躍の年になりそうだ。


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