岡田将生研究㉒愛される理由

 近頃岡田将生は「パブリックイメージ」について悩んでいるらしい。2022年放送のラジオにゲスト出演した時も、2023年7月に宮藤官九郎のラジオに出演した際にも、同じようなことを言っていたので、どうやら本人にとっては深刻なことのようだ。ここで少し考えてみて欲しい。芸能人のパブリックイメージは、故意に作られるものではなかったか?売り込むためにイメージを作りこんで、2枚目で行くか、3枚目路線で売るか、戦略を立てるものだと思っていた。逆に言えば岡田のバラエティやトーク番組で見せる姿は、故意に作ったイメージではなく、言わば丸腰でカメラの前に出ているという事なのかもしれない。そしてそれこそが、岡田将生の魅力そのものだと思う。

 こんな記事を書いていると、それこそ岡田に「あなたに僕の何がわかるって言うんですか?」とお叱りを受けそうだ。しかし、岡田のインタビュー記事を読み込んだり、バラエティ番組やトーク番組を通して見えてくる「外側から見た人となり」について語ることをどうか許してほしい。

 まず友達が多い。バラエティ番組やインタビュー記事で、かつての共演者の口から岡田の名前が出てくる回数が、岡田本人がメディアに出るよりももしかしたら多いかも!?と思わせるくらい。岡田から名前の挙がる人も含め、ざっと思い出せるだけでも、親友の澤部佑や松坂桃李をはじめ、生田斗真、小栗旬、藤原竜也、ウェンツ瑛士、松本潤、安藤サクラ、柳楽優弥、賀来賢人、落合モトキ、柄本時生、溝端淳平、山崎育三郎、石崎ひゅーい、鈴木浩介、ムロツヨシ、阿部サダヲ、中井貴一などなど錚々たる面々。それも同世代から年上ばっかり。共演後にもこれだけの人たちと交流があるということは、客観的に見れば社交的な人だと思う。本人は「人見知りで気を使って疲れちゃうので・・・」と社交性を否定しているが、そういうことは比較的誰でも感じることだ。これだけの人と交友関係を結べるという事実を見れば、十分友好的な性格で、人に好かれる人なのだと思う。

 火曜サプライズに出れば、案内役のウエンツから30万円もするゴルフバッグを買ってもらい、Aスタジオに出演すれば、鶴瓶に壊れた照明の代わりに新しいのをおねだりしたり、クドカンのラジオではさんざん愚痴を吐きまくった挙句、最後には宮藤夫妻と人間ドックに一緒に行く約束を取り付ける。嫌味なく年長者の懐にするりと入って可愛がられてしまうのは、もはや才能。それを見ている視聴者も、何故か微笑ましいと笑ってしまうのも人徳のなせる業。ぴったんこカンカンで、安住アナに「岡田さんを嫌いな人って世の中にいないと思います」と言われ「そんなことないです。好きでいてくれてありがとうね」と返したのも忘れ難い。

 そもそも「自分は人見知りで、人に気を使ってしまう」と言えてしまう素直さこそが魅力なのだ。現場でもよく弱音を吐くと言う。自分の芝居をいつも心配しているのだとか。弱音を吐ける素直さ、芝居に対するストイックさ、キャリアを積み上げても奢ることのない謙虚さが、人を惹きつける。

 笑顔の素敵な人だなと思う。バラエティやインタビューなどを見ていると、上を向いて大口を開けて思いっきり笑う。よく笑う人だ。岡田のインタビュー記事を読んでいると、どこかに必ず(笑)のマークがある。本人のみならず、岡田の事について話している人(監督など)のインタビューにも(笑)が必ずと言っていいほど入っているのも微笑ましい。人を笑顔にする人なのだ。作品のクランクアップで号泣するのも毎度のことで、感受性の豊かさをうかがわせる。当人は「自分は暗い人間だ」と言うことも多いが、一人でいる時、たいていの人は暗い。当人のよく言う多面性というやつだ。自分を大きく見せることもなく、上手く場を盛り上げるタイプではない、大人しい人柄なのは伝わって来るが、陰湿さは微塵も感じられない。

 番宣のバラエティはいつも全力投球。笑いを取りに行ってるわけでもないのに面白い。かっこよく見せようとか、頭が良く見られたいとかの打算がなくて、一生懸命さが笑いを誘い、時にかっこよく決まる。自然体が心地よい。では、芸能人ぽくないのか?というとそうではない。今どき、本名を明かしていない芸能人は珍しい。子どもの頃の写真でさえ、公式に出る数カットのみで、卒業アルバムなども流出していない。SNSは一切やらず、プライベートはベールに包まれている。俳優という職業に誇りを持ち、グッズはおろか写真集やカレンダーも出さず、見た目の華やかさとは裏腹に、アイドル売りを一切しない。そんな俳優は滅多にいない、実は貴重な存在だ。そんな岡田が、作品の番宣となると、慣れないSNSに奮闘する姿にプロ意識を感じ、自然と応援したくなる。

 「どこか欠点のある役を演じたい」「どんな嫌な奴でも自分だけは役を理解し、愛着を持って演じたい」と言い切る。「皆さんから愛されるキャラクターにしたい」とも。作品発表時のコメントは思いのたけをぶつけて長くなり「重い人になってる」と悩み、インタビューでは毎回撮影時のことが思い出せず、エピソードが出てこないと嘆く。どれも誠実な人となりを思わせる発言だ。先日公開された「1秒先の彼」では、対談鼎談を含め実に28本ものインタビュー記事が書かれ、さらに3本のラジオ、9本のテレビインタビューに答えているのだ。全部に誠実にあろうとすれば、パンク寸前になるのもうなずけ、スターであるにも関わらずこうした正直な発言の数々につい親近感を覚えてしまう。物腰柔らかく、いつも丁寧な言葉遣いで品性を感じさせるのも好印象。

 私生活は、スーパーで買い物をし、掃除洗濯料理など家事全般もこなせば、お笑いやゲームも楽しみ、本も漫画も読む。ごく普通の人と変わらないと強調する。安藤サクラは「いつもあちこちぶつかっていて、見てて飽きない」と言い、賀来賢人は「こんなにかっこいいのに人間臭い。そこがまーくんの魅力」だと言う。西島秀俊曰く「純粋すぎて心配になる」。シアターコクーンのプロデューサー加藤氏によれば「柳の木のような人。折れそうで折れない」。

 2021年のインタビュー、自らの俳優人生について「知らぬ間に鮮やかな世界に引き込まれて、その彩りを見ながら歩いている感じ」と語った。ただのんびり歩いているだけで、デビューからずっと第一線で活躍できるほど、この世界は甘くないことは誰もが知るところ。役の職業について学んだり外見を変えたり、台本を事前に全部暗記して稽古に挑むのも当たり前なプロフェッショナル。そんな岡田が同年公開「ドライブ・マイ・カー」の後でようやく言った一言が役者としてのストイックさを物語る。「やっとこれで俳優って名乗れる」。

 岡田将生の愛されキャラの根底には、俳優としての確かな実力と、芝居に対する熱い情熱が潜んでいる。「大豆田とわ子と三人の元夫」の慎森であったり、「ドライブ・マイ・カー」の高槻、昭和元禄落語心中の八雲、「ゆとりですがなにか」の坂間など、近年だけでもこれだけの魅力あふれる幅広い役を演じ、それぞれの役にファンがいる。俳優としてこんなにも輝いているのに、本人は何故かパブリックイメージを気にしているのが面白い。こういうギャップこそ、岡田将生の魅力であり、愛される理由なのだと思う。



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