岡田将生研究⑭バディ・トリオもので輝くヒロイン感と俳優力

 圧倒的なカリスマ性で作品を引っ張る主演俳優がいる中で、岡田将生は、バディものトリオものでより魅力が引き立つ俳優の一人である。連続ドラマ初出演の「生徒諸君!」も3TDというクラスのを牛耳る3人組のひとりであった。岡田の主演ドラマで続編が製作されたのは、「ST警視庁科学特捜班」(続編は赤と白の捜査ファイル)「不便な便利屋」「ゆとりですがなにか」の3本でいずれもバディ・トリオものである点も興味深い。以下、岡田のバディものトリオもの作品の数々を振り返る。

ドラマ「生徒諸君!」(2007)
クラスを陰で支配する3人組3TDの一員を堀北真希、本郷奏多とともに演じた。男2人女1人の組み合わせでのトリオはこの作品のみ。

ドラマ「黄金の豚 会計検査庁」(2010)
明確なトリオ作品というわけではないが、主人公(篠原涼子)を取り巻く3人組(大泉洋、桐谷健太)という構図は、後の「大豆田とわ子と三人の元夫」の構成と酷似。年上の女性に恋をし、年上の大泉と張り合いコントのような言い合いをする(大豆田では角田)という設定も一緒。岡田と年上俳優との相性の良さが発揮され、その後のバディ・トリオ物(とりわけコメディ路線)の作品に大きな影響を与えていそうな重要作品。

映画「宇宙兄弟」(2012)
小栗旬と兄弟役を演じた作品。兄弟ものであるが、宇宙飛行士という同じ目標に向かう2人であり、2人だからこそのストーリー展開という意味でバディものに分類。滲み出る弟感が素晴らしい。

ドラマ「ST警察庁科学捜査犯」(2013)
ドラマ・映画「ST赤と白の捜査ファイル」(2014、2015)
個性派天才化学集団STを束ねるキャップ役だが、実質STリーダー役の藤原竜也とのバディもの。愛すべき振り回されキャラを確立した作品でもある。

ドラマ「チキンレース」(2013)
45年の昏睡状態から目覚めた男(寺尾聡)と看護師(岡田)が徐々に距離を縮めて友情をはぐぐむ物語。北海道まで車で旅するロードムービー的要素もあり、実年齢45歳差のバディの微笑ましいやり取りに心が温まる。

ドラマ「不便な便利屋」(2015,2016)
北海道赤平市を舞台に遠藤憲一、鈴木浩介とともに織りなすドタバタコメディの傑作。ここでは岡田には珍しい振り回しキャラ。おじ様2人との相性は抜群。

ドラマ「ゆとりですがなにか」(2016,2017)
柳楽優弥、松坂桃李との同世代トリオの個々の悩みやあがきを軸に描いた、社会派コメディ偶像劇。同世代俳優とのバディ・トリオ作品はこの1作のみ。

ドラマ「小さな巨人」(2017)
主人公の長谷川博己とは、前半は敵対する関係だが、後半は同じ敵と戦うべく共闘するバディのような関係に。スタイリッシュな刑事もの。

ドラマ「昭和元禄落語心中」(2018)
孤高の落語家の物語だが、前半部分の助六(山﨑育三郎)と切磋琢磨し葛藤する描写は作品の肝。原作者がBL作家であることからブロマンズ要素あり。

ドラマ「タリオ 復讐代行の2人」(2020)
詐欺師であり若き弁護士(浜辺美波)と組んで復讐代行を請け負う。男女のコンビは当作品が初であり、年下の俳優と組むバディものも初となる記念すべき作品。頼りがいのある大人の余裕も感じさせた新境地。

映画「さんかく窓の外側は夜」(2021)
霊が見える書店員(志尊淳)とタッグを組んで除霊業務や連続殺人事件の謎を追う除霊師役。相手を強引にバディに引きずり込むという設定だが、残念ながら良いコンビに育つ前に映画は終わる。

ドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」(2021)
大豆田とわ子(松たか子)の元夫役を松田龍平、角田晃広とともに演じた。とわ子と三人の元夫たちが織り成す絶妙なバランスのおしゃれ会話劇。2番目の夫(角田)との掛け合いも楽しくバディ要素も。

ドラマ「ザ・トラベルナース」(2022 放送中)
意識もプライドも高いが一見感じの悪い優秀なトラベルナース(岡田)がミステリアスな伝説の凄腕看護師(中井貴一)と出会い医療現場を改革して行くというストーリー(公式より)。岡田と中井のくすっと笑える絶妙なやり取りが見どころのひとつ。

※ドラマ「掟上今日子の備忘録」もバディものと言えなくもないが、恋愛要素が入るため除外した。

 上記13作のうち年下の俳優と組んだ作品は「タリオ」と「さんかく窓の外側は夜」の2作品のみ。同世代俳優とのトリオ「ゆとりですがなにか」と「生徒諸君!」を除き、圧倒的に年上の俳優とのバディ、トリオものが多い。岡田の滲み出る弟感からか、不思議と年上の俳優と組む方が岡田の魅力は増すように思う。また岡田が若くして売れ、年齢のわりにキャリアがあること、初主演映画「ホノカアボーイ」でも賠償千恵子や松坂慶子といった超一級のベテラン女優と共演しながらも堂々とした存在感を発揮していたこと、などから年上の俳優と並んで霞まない見た目と演技力が買われての抜擢であることがうかがえる。「不便な便利屋」では、毎日撮影前に共演の鈴木、遠藤と入念な読み合わせを行い、「ゆとりですがなにか」撮影中は、松坂柳楽と飲みに行ってもやはり撮影の話や読み合わせをしていたというエピソードがある。こうした芝居に対する熱意は、年長の共演者にも好感を持ってバディとして受け入れられる一因であろう。

 次に2023年公開「1秒先の彼」のキャスト発表時の宮藤官九郎の言葉「岡田君には不思議なヒロイン感がある」について考察する。ドラマ「ST」の最終回は、百合根(岡田)は犯罪集団に連れ去られ、そこにバディの赤城(藤原)が助けに来る。縄でぐるぐる巻きにされた挙句、銃で腕を打たれて赤城に抱きかかえられるという正にヒロイン展開だった。「小さな巨人」でも山田(岡田)は手錠をかけられ「香坂さん!」と追ってきた香坂(長谷川)をすがるような目で見つめながらパトカーに乗ったり、父親(高橋英樹)を前に「父さ~ん」と泣き叫んだりと完全にヒロイン。「不便な便利屋」でもバニーガールの衣装を着させられたり、ゲイのバーのマスターにロックオンされたり・・・ヒロインポジションと言えなくもない。そういう役回りが嫌味なく似合ってしまう才能がある。

 また最近のトラベルナース関連記事中の「変な人に振り回されて輝く貴重なイケメン」というフレーズ。こちらも妙に納得させられるパンチがある。「STシリーズ」は、バディの赤城をはじめSTメンバー5人全員が変人だったし、「ゆとりですがなにか」もマリブやら山岸やら変な人わらわらのドラマだった。「不便な便利屋」に至っては全部がカオス。「チキンレース」でも振り回されっぱなしだった。岡田は、彼ら変人の演技に対して、相手を際立たせる受けの演技に長けている。強烈な個性を放つ怪演に対するリアクションが抜群なのだ。視聴者目線の立ち位置でいて、決して変人を嫌いにさせない。あきれていたりイラついて見せるのに、その人を心の底から嫌いではないと思わせる演技は出色かつ魅力的。もっと困った顔が見たいとさえ思ってしまう。

 現在放送中の「ザ・トラベルナース」のインタビュー記事で岡田は、「一つ一つの現場を大切にすることで次につながってくるので、いい監督、いい共演者、いいスタッフに巡り合うために、自分自身を人間的に豊かにしていかなければいけないと思う」「貴一さんは、なるべく近い距離で学ばせていただきたいという僕の気持ちを汲み取ってくださって、常に隣に立ちながら一緒に歩んでくださることにとても感謝しています」と語る。一方中井は、「岡田君はいい経験を積み重ねて、年を取るほど俳優として大きくなっている。そんな彼の姿を見ていると、僕が経験してきたものを託したいし、伝えたくなる。そうしたいと思わせる人間性が備わっているんです」と。岡田と中井の俳優としての関係は、そのまま役柄の歩と静にリンクする。この2人の年の差バディがどのように成熟し視聴者を楽しませてくれるか、期待しかない。





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