岡田将生研究⑫純粋培養俳優の希少価値とCM

 岡田将生は、最近の俳優としては珍しくSNSを一切やらない。その端正な容姿からアイドル俳優と誤解されがちだが、写真集やカレンダーも出さずお渡し会やファンミーティングもやらず、ファンの前に出るのは映画の舞台挨拶か自身の出演する舞台公演のみ。戦隊ヒーローものやライダー俳優でもなく、モデル出身でも子役上がりでも二世俳優でもなく、特定の作品で大ブレイクしたわけでもない。それなのに10代から15年以上も第一線で活躍し続ける非常に稀有な存在だ。少なくとも主役級の同世代で岡田のような売れ方をしている俳優は他に見当たらない。その安定した人気と俳優としての活動を支えるものとは?

 岡田のデビューは2006年、意外なことにドラマや映画と言った俳優仕事ではなく日本工学院専門学校のCMだ。この後「東京少女」(BS-i)でドラマデビューを果たした後、2007年映画「天然コケッコー」ドラマ「生徒諸君」「花盛りの君たちへ~イケメンパラダイス」で一躍スターダムに駆け上がる。2009年「ホノカアボーイ」で映画初主演、その年公開された「僕の初恋をキミに捧ぐ」「重力ピエロ」などで映画の新人賞を総なめにし、「オトメン」で連続ドラマ初主演を果たす。以後映画ドラマ舞台合わせて主演作だけでも35本、文字通りトップクラスの活躍ぶりである。

 2006年のデビュー以来16年間、CMが途切れたことがないことにも注目したい。日本は俳優のギャラが安く、テレビCMの仕事が俳優や所属事務所の大きな収入源になっていることは周知の事実だ。よって出演するCMの本数やギャラがタレントとしての商品価値や人気のバロメーターとしてとらえられることも多く、俳優にとって重要な仕事のひとつである。岡田の俳優仕事が順調な陰には、途切れないCM出演というキーが隠されている。

 抜群の好感度を背景に毎年数本のCMに出演し続け、毎日のようにテレビで見かける岡田だが、CMがたった1本(日本コカ・コーラ「カナダドライ」)に減ってしまったピンチが2017年前期に訪れる。2017年前期は、スペシャルドラマ3本(「絆~奇跡の仔馬」「北風と太陽の法廷」「ゆとりですがなにか純米吟醸純情編」)と「バイプレーヤーズ」のゲスト出演(第11話12話)、連続ドラマ「小さな巨人」に出演、夏には「銀魂」「ジョジョの奇妙な冒険」と2本の映画公開。番宣などを含め、CMでの露出減とは裏腹に休む間もなくテレビに出続けた。

 潮目が変わったのはその年の9月。アクサジャパン3社(アクサダイレクト生命、アクサ損害保険、アクサ生命)が「ONE AXA」として企業広告キャンペーンをスタート、そのアンバサダーに岡田が抜擢されたのだ。同時に「クロレッツ」のCMも獲得し、合計4社のCM出演により広告収入が安定した。「小さな巨人」で新境地を開きドラマもヒットしたことから、引き続き民放ドラマに出演し続けると思われたが、ヒットによるCM獲得を機に活躍の軸をギャラが安いと言われるNHKと舞台に移すことになった。

 2018年、大人計画の傑作舞台「ニンゲン御破算」に出演、秋にはNHKの名作ドラマ「昭和元禄落語心中」にて落語名人の10代から70代を熱演し、実力派俳優としての認知度を高めた。2019年には「ハムレット」「ブラッケン・ムーア~荒れ地の亡霊」と2本のハードな主演舞台をこなしつつNHKの100回記念朝ドラ「なつぞら」に主人公の兄役(2番手)で出演するという離れ業をやってのけた。2020年、目立った露出はNHKドラマ「タリオ~復讐代行の2人」くらいではあるが、この年はコロナ禍にありながら実に映画4本を撮影しており、そのうちの1本があのアカデミー賞外国語映画賞をはじめ国内外の数々の賞を受賞した「ドライブ・マイ・カー」だ。思う存分芸を磨くことに専念できた充実の4年間だったのではないだろうか。俳優として生き残りが難しいと言われる30歳を挟んでのことである。

 この間のCMにも目を向けてみよう。2018年より出演した「ヤマキの白だし」は、ペットボトル化と同時の起用であったが、前年比27%増で過去最高の売り上げを記録。親友である澤部佑と共演した「ポケットモンスター ソード・シールド」は2019年ゲームソフト売り上げ第一位を記録、ポケモンのゲームソフト歴代2位の売り上げだった。ニベア「エンジェルスキンボディウォッシュ」は発売と同時に起用され、「美的」の2019年上半期ベストコスメボディウォッシュランキング1位を獲得した。アクサダイレクトは2019年の天体観測編の車に傷をつけても怒らないお兄さんぶりが話題を呼び、売り上げ20%UPにつながった。2021年7月「LeagalForce」同社初となるテレビCMに弁護士役として抜擢。認知向上目的で制作されたが、同社は2022年6月に約137億円の資金調達に成功し2023年には海外展開することを発表。CMは1年で終了したが2021年1月同社の資金調達が約30億円だったことを鑑みると当初の目的達成におおいに貢献した。2022年2月限定発売の「マックチュロス」は予想を大幅に上回る売れ行きで1週間を待たずに完売した。

 岡田は、CMの演技にもいつも全力投球の生粋の役者魂の持ち主である。わずか15秒や30秒の中にも自分の立ち位置に悩み真剣に「芝居」を求める。その姿勢はこれらの功績とともに、伊達にCMのオファー途切れないわけではないことを物語る。

 2021年深夜ドラマ「書けないッ!?」の友情出演を経て、4年ぶりに民放GP帯連続ドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」に出演し、愛すべき元夫慎森を好演し存在感を示した。近年、30歳前後で下積みから台頭してくる俳優が増えた。その分、10代から活躍している俳優は新鮮味に欠けることが仇となり、生き残るのが難しい。露出が減れば消えたと言われ、出続ければ飽きられる。競争の激しい世界である。本人がどのくらい意図したことであるかはわからないが、岡田将生の戦略は、CMに出続けることで存在感を残しつつ、しばらく民放ドラマから離れ、NHKや舞台、映画で実力を養い、再び民放ドラマに出演し鮮度を保つことに成功している。

 SNSやYouTubeなどで自ら発信する俳優が増えてきているにも関わらず、かたくなに一切の発信をしない、写真集を出さないしモデル業もやらない。最近の俳優には珍しいが、俳優である自分にこだわり続け、このスタイルでどこまでやれるか俳優としての実力を自ら試してしているようにも見て取れる。ファンとしてはぜひともそれを見届けたい。先日、自身初となるアルコール飲料サントリーのウイスキー「碧AO」のCM出演が発表された。秋から始まる連続ドラマ「ザ・トラベルナース」は6年ぶりの民放GP帯単独主演。岡田の俳優人生にとって非常に重要なドラマになりそうだ。俳優岡田将生の魅力をたっぷりお茶の間に届けて欲しい。


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